第31話 楽しいこと

ザックは、二日に渡るおかわりレベリングを終えて領主館に戻ってくると、応接室のソファで優雅にお茶を飲んで寛いでいるアルを発見した。


「てっきり、今も魔族軍と死闘を繰り広げていると思ってたのですが、どういうことですか…?」


遠い目をしているザックをアルが労う。


「わりぃ、わりぃ。せっかくのレベリングの邪魔しちゃ悪いと思って、殲滅完了の連絡をしないでおいたらそのまま忘れてたぜ。でも、その様子だと良い感じのレベリングができたみたいだな。お疲れさんッ!ムトゥも、お疲れさんだったなッ!」


ザックの隣にいたムトゥは、頭を掻きながら照れ臭そうにアルに報告する。


≪…ったく、“良い感じのレベリング”って何だよ。でも、短期間だったが、良い感じで仕上がったぜ。レアドロップで装備もかなり充実したしな。≫


ザックは、窓辺に近づくと領主館の庭に目線を移した。


「不眠不休でレベリングしたから、騎士団員は庭で爆睡してますけどね。」


!!!バタンッ!!!


応接室の扉を勢いよく開いた。


目を向けると、斥候からの報告書を握りしめたザックパパが満面の笑みで立っていた。


「フォフォフォッ!アル様、お疲れ様です。そして、最高の形で”丸儲け”状態にしていただき、ありがとうございます。それにしても、あの大軍を僅か1~2日で片付けるとは、誠に恐れ入りました。」


アルも満面の笑みで誇らしげに胸を張る。


「フフ。うまく”丸儲け”できたな。まぁ、ほとんどはヴァンとテスラのお蔭なんだけど。」


そして、アルとザックパパは、お互いの健闘を称えるように微笑む。


「フォフォフォッ!流石は、私が認めた御方ですなッ!…それはそうと、先ほどアル様の“元”婚約者もどきがここを嗅ぎ付けて来ましたが、いかがいたしますか?」


アルは、一瞬、ハテナ(?)の顔になるが、すぐに思い出して気持ち悪そうな表情になる。


「???婚約者???…おおッ!思い出した!あのモラハラアバズレ女か~!ゲェ~。思い出したら気持ち悪くなってきたぜ。親父さんが街に変な名前を付けたからバレたんじゃない?顔もみたくないから、適当に追い返しておいてくれ。な~んの関係もない赤の他人だからな。百害あって一利なしだ。くわばらくわばら。」


ヴァンは黒い笑顔で微笑んでいた。


『ふ~ん♪アイツら、僕との約束を破ったんだね♪』


ザックパパは、独自の情報網から集めた報告書を机に広げると、その中の一枚をヴァンに差し出した。


「フォフォフォッ!その報告書によると、ウッドポッシュ王国は内乱や隣国からの干渉で崩壊寸前みたいですな。最早、ヴァン様が手を下す必要はございますまい。」


ヴァンは報告書を眺めながら、アルに尋ねる。


『そうだけど、ケジメは必要だよね♪アルはどうすればいいと思う?』


アルは、机に広げられた他の報告書を読みながら答える。


「う~ん。どうでもいいヤツらに時間を使うのはもったいないから放置で良いんじゃない。ほっておいても、どうせ自滅するんでしょ?もちろん、牙を剥いてくる場合は、容赦しちゃ駄目だけどな。」


アルの言葉にヴァンは嬉しそうに頷く。


『なるほど、そういう考え方もあるね♪じゃあ、ケジメは後回しにしとこうかな♪』


「そうそう。時間は、なるべく楽しいことに使った方がいいぜ。レベリングなんて、おすすめだぜッ!楽しいし、稼げるし、強くなるしなッ!」


アルの”レベリング楽しい”発言にザックとムトゥが声を揃えて反応する。


「≪全然、楽しくありませんから(楽しくねぇから)ッ!≫」

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