「恥」

「告白します。

 私はある間違えから、『恥』を晒してしまいました……。

 もう、思い出すだけでも恥ずかしく、胸が苦しくなって仕方がありません……。

 こんな思いをするぐらいなら、いっそ、私は……!!」


 私がそう告げると、あの方は優しく微笑みました

 そして、こう私に告げます……。


「……人は誰でも過ちをするものです……。過ちを犯したことのない人間なんて、きっとどこにも居ませんよ……」


 そう言って、あの方は優しく私に手を差し伸べてくれました。


「さぁ。語りなさい……。あなたが言う、その『恥』を……。話すことで、きっと、あなたは救われるはずです……」


 私は涙を流しながら、頷く。



 * * *



 あれは、数日前の日曜日のことです……。

 その日、私は仕事が休みで暇だったので、同じく暇だった友人Fと会うことにしました。

 男二人が会ったところで、なにをするわけでもなく、とりあえず、暇つぶしに車で適当な場所までドライブをしようという話になり、私が運転。彼は助手席という形で車を走らせました。

 そして、車内で私はFにこんな話をしたのです……。


「Twitterで話題になったんだけど、ある若手の俳優さんが『カインズ』のことをずっと『ニードル』って呼んでたんだってさwww先輩の俳優さんから指摘されるまで、気づかなかったとかwwww」


 私は笑いながら、Fにそう話をしました。


「カインズ?」

「うん、電子書籍のカインズ」

「???」


 私は他愛のない会話をしていたつもりなんですが、何故か、Fの様子がおかしいのが気になりました……。

 この時、私は気づくべきでした……。


 私は今、大きな間違いをしているということに……。


 この後、私はFと一緒に車でいろんな場所へと行き、買い物をしたり、食べ歩きをしたりして、日曜の休日を過ごしました。

 すると、外はすっかり暗くなり、夜の午後7時に。

 腹も空いてきたので、私とFはファミレスで食事をすることにしました……。



 ファミレスでの食事中……。

 私は『K商売』『K稼業』という漫画が面白いと、Fにオススメしました。

 その時、私はまたしても大きな過ちを犯したのです……!


「この作者の最初の連載作が『M張』ってタイトルだけど、この漫画の内容は(事情により省略)。でも、さすがに昔の漫画だから、もう単行本を入手するのは難しいんじゃないかなー」


 私はそう言って、スマホで『M張』を検索しました。

 すると、『kindle Unlimted』という定額で、漫画や小説などの電子書籍が読み放題のサービスがあり、それに加入すると『M張』が読めることを発見しました。

 そのことをFに伝えます。


「ああ!『カインズ・アンリミテッド』に加入すると全巻読めるみたいだよー」

「???」


 やはり、何故か、反応が悪いF。

 妙な沈黙が流れます……。

 すると、ついにFは沈黙を破って口を開きました。


「あ、あのさ……さっきから、電子書籍の事を『カインズ』、『カインズ』って言ってるけど、それってさぁ……。もしかして、『キンドル』のこと?」


 ……。

 この瞬間、まるで時間が止まったようでした。

 ですが……。


「え?『カインズ』は『カインズ』では?」


 私がそう言うと、Fはなにかを悟ったように黙り込みました。

 そして、ファミレスで食事を終え、そのまま解散。

 私とFは帰宅しました。



 ……。

 後日……。

 Fの様子がおかしかったことが気になり、なにが良くなかったのかを考えてみました。

 すると、私が『カインズ』と言うたびに、Fの様子がおかしかったということに気づいたのです……。


「も、もしかして……」


 私の顔は真っ青になり、冷たい汗が背中から流れました。

 そして、急いでスマホに『kindle』という単語を打ち込み、kindleの正しい読み方を調べました……。

 すると、スマホの画面には……。



「kindle(キンドル)」



 ……。

 電子書籍『kindle』は『キンドル』と読み、『カインズ』と読むのは大きな間違えでした……。

 はい、そうなんです……。


 私はどういうことか、『kindle』をずっと『カインズ』と読み間違えていたのです!


 その事実を知った瞬間。私はまるで全身の血が一気に抜けたかのような感覚に襲われ、眩暈と吐き気がし、思わず大きな声で叫びました。


「メチャクチャ、恥ずかしいよぉおおおおーーーーーー!!!!!!うわああああああーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



 * * *


 そんなわけで、私は死にたくなるほど、恥ずかしい思いをしました……。

 今頃、Fは「あいつ、すっげぇアホだ……。ウルトラ級のアホだ……。アホのオリンピックがあったら、絶対に出れる」と思っているに違いないでしょう……。


 恥ずかしい……。

 恥ずかしい……!

 恥ずかしいです……!!


 助けて下さい……。

 お願いです!!助けて下さい!!


 私がそう告白すると、あの方は苦笑いをしたまま、なにも言ってくれませんでした。






※この話は実話じゃなかったら、良かったのにな……。

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