「ハチミツとおもちと千力くん」

 これは今から15年ぐらい前の話。私がまだ20代だった頃の話だ。

 東北地方の実家から離れ、関東の専門学校に通っていた私だったが、就職に失敗。 

 それが原因……というわけでもないが、無気力になり、専門学校卒業後、3年ぐらいフリーターをやっていた時期があった。

※だから、私の書く短編には無職の登場人物が多かったりする。


 就職に失敗し、ちょっと自暴自棄になっていた私は実家に帰らず、そのまま関東地方S県のアパートで独り暮らしをしていた。

 当然だが、親からの仕送りもなく、生活のために毎日グダグダとバイトをするか、オフの日(毎日がオフみたいな状態だったが……)はダラダラ遊んでいるか、寝ているかの非生産的な日々を送っていた。


 そんな無気力な日々を送っていた時期。

 当時、バイトしていた飲食店のバイト仲間だった千力せんりきくん(仮名)という同い歳の青年と、私はよくつるんで遊んでいた。

 千力くんは教育関係の大学に通う青年。音楽が好きで、大学の軽音楽サークルに所属し、ボーカルをやったり、ギターを弾いたりしているバンドマンだった。


 絵に描いたようなダメ人間だった私とよく遊んでくれた千力くんは、良い人だった……んだが、ちょーっと、どこか抜けていた……。




 これは、当時人気だった漫画「ハチミツとク〇ーバー」……略して「ハチクロ」が最終回を迎え、最終巻が発売された時のことだ

 私は当時メチャクチャこの漫画にハマり、全10巻持っていた。

 そして最終巻で、メチャクチャ号泣した。

 あの最終回はスッゴイ泣いた。

 痩せるかと思うぐらい泣いた。


 あまりにも、ハチクロに感動した私は千力くんにハチクロをオススメした。

 すると、千力くんは「ああ。あの漫画、僕も気になってたんだよ」と言う。

 そこで私は「よし、今度、漫画全巻貸してあげるよ」と言い、千力くんにハチクロを全10巻貸したのであった。


 それから、数日後……。

 そろそろ、全巻読み終えた頃かな?と思い、バイト先で千力くんにハチクロの感想を聞いてみた。


「どうだった、ハチクロ?面白かった?」


と私が聞いてみると、千力君は笑顔で、


「うん、すごい感動したよ!!」


と答えてくれた。

 おおー、そこまで喜んでくれるとは……。

 オススメした側としては、とても嬉しいものがあるな。


「やっぱ、最終回は感動したでしょう?」


 私がそう言うと、千力くんは……。


「うん!あんまりにも感動しすぎて、一巻を読んだあと、すぐ最終巻を読んで泣いちゃったよ!!」


 満面の笑顔で、千力くんはそう答えた。

※実話です。

 千力くんの言葉を聞いて宇宙コスモを感じた後、私は千力くんと今後どう付き合って行けばいいのか、小一時間ぐらい割と本気で悩んだ。





※個人の自由なんで、漫画をどこから読もうがそれは自由だとは思いますが、『ジョジョの〇妙な冒険』で言ったら、「第1部でディオが石仮面を被る前に、第6部ストーンオーシャンの最終回を読んで感動した」と言われるぐらい解せないと言いますか……。


そんなちょっと抜けている千力くんとは、もう15年以上会っていませんが、元気にしているだろうか……。

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