「闇の金貸し サメジマさん」
短く切られた髪。顎を覆う黒い髭。そして、黒ぶち眼鏡の奥にある鋭い目。
身長は170センチに満たないが肩幅が広く、服を着ていても、かなり筋肉質な体型をしているのがわかる。
そして、何より異質なのは、この男の身体から放たれる存在感。
我々の想像を超えた数々の修羅場を経験し、あらゆる手段を使って乗り越えてきたのが、その男の黒く染まり切った眼を見ればわかることだろう。
男の名は、
金融会社『シャークブラスト』の社長。相手を選ばず、金を貸す仕事だ。
この会社は、14日で7割という超暴利での金の貸し出しを行っており、返済期限が過ぎた債務者からは、どんな手段を使ってでも貸した金と利子を回収する悪魔のような男だった。
鮫島貴幸……。
彼は、超暴利の闇金屋である……。
X X
夏の暑い日。雲一つなく、太陽が紫外線と熱を放つ。
駅前の商店街にある小さな喫茶店。店名は「鮮血の美学」。
店主自慢のブレンドコーヒーが売りの喫茶店だが、コーヒーよりも紅茶の方が人気だ。
この喫茶店の中に、その男は居た。
男はテーブル席に座り、黙々とカレーライスを食べている。
カレーライスの隣にはアイスティーがあり、男はカレーライスを食べ終えると、そのアイスティーをゴクゴクと飲んだ。
鮫島貴幸……。
彼は今、灰色のポロシャツを着て、昼休みの食事をしていたのだ。
アイスティーを飲み終え、フーッと息を吐く鮫島。
すると、ポロシャツの胸ポケットに入れていたスマートフォンから音が鳴った。
胸ポケットから、スマートフォンを取り出す鮫島。
ディスプレイには「立山」という名前が表示されていた。
鮫島は着信ボタンをタップし、スマートフォンを耳に当てる。
「もしもし……俺だ……」
「ああ!!社長っすか!!俺っす!!立山っす!!」
スピーカーから聞こえてくる立山という男の大声に顔を顰める鮫島。
「うるせーな……。いきなり、大声出すな……。鼓膜、破れんだろうが……」
「あっ!!す、すみません!!」
鮫島は眉間に皺を寄せる。
数々の武勇伝を持つ男で、度胸と根性、腕っぷしの強さが自慢の男だ。
たまに調子に乗ってミスをしてしまったり、酒癖が悪かったりするが、鮫島が信頼する社員の一人である。
この会社を立ち上げる前から付き合いのある男で、鮫島は立山のことをよく知っていた。
立山は、滅多なことでは動じたり、慌てたりしない男だと。
「……なにか、あったのか?」
そんな立山が慌てた様子で電話をかけてきた。
今、立山は会社の事務所で留守番をしているはず。
事務所の中でなにかが起きたのか?
「た、大変です!!しゃ、社長!!とにかく大変なんです!!!」
「だから、なにが大変なんだ……?早く言え……」
立山はパニック状態でまともな会話が出来ず、話が進まない。
鮫島は苛立った。だが、同時に一抹の不安を感じていた。
あの立山がここまでパニックになるとは一体、なにが起きたんだ?
事務所に警察が入ってきたのか?
いや、まだ足が着くような真似はしていないはず……。
それとも、ヤケになった債務者が『物騒なモン』を持って、事務所にやってきたのか?
だが、立山は『物騒なモン』にビビるようなタマではない……。あいつはそういう修羅場を何度もくぐり抜けてきた。
一体、なにが起きた?
想定し得る最悪の事態を次々と、頭の中で展開する鮫島。
そして、スピーカーの向こうから立山の声が響いた……。
「いっ!イノシシが!!でっかいイノシシが事務所の中に入ってきて、暴れ回っていま……!!ぐわぁっ!!うわあああああ!!!!!」
立山の叫び声を断ち切るように、鮫島はスマートフォンの電源を切った。
まるで、何も聞いてなかったかのように無表情の鮫島。静かに落ち着いた雰囲気で、テーブル席から立った。
白いジーンズの後ろポケットに入っている財布を静かに取り出す鮫島。財布を開き、中から千円札を一枚、500円玉を一つ、テーブルに置いた。
「マスター……。勘定、ここ置いとくから……」
そう言って、鮫島は店のドアまで足音を立てずに向かう。
ドアを開き、店から出る鮫島。
太陽の強い日差しが、彼の顔に降り注ぐ。
「ったく……」
鮫島は舌打ちをした。
そして、陸上選手のように猛スピードでダッシュした。
完
※この話はすべてフィクションです。登場する人物、及び、企業、団体など、すべて架空の存在で、実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。
闇金は犯罪です。闇金の不当な利息は返す必要はありません。
借金とイノシシに関する問題は、専門家に相談を。
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