「沈黙 part.2」
人気がなく、錆びれた遊具が並ぶ、寂れた公園内。
そこに、学ランの制服を着た梅田と星野の二人がベンチに座っている。
梅田と星野。二人は特筆する点がない程、どこにでも居る平凡な高校生。
二人は無言で缶コーヒーを飲んでいた。
なにも喋らない二人。
ただ、沈黙が流れる。
すると、梅田の口が開いた。
「なぁ、星野……」
「なんだよ、梅田」
「なんか、話題ねぇのかよ……。俺ら、さっきから1時間ぐらい黙ってベンチに座ってんだぞ……。さすがにしんどいわ……」
梅田は缶コーヒー片手にうなだれた。
星野は少し考え込んだ後、
「……。いや、なんの話題もないな」
と言った。
「だよなー……」
ため息吐く梅田。
「……アレ?」
なにかに気づいた梅田は声を発した。
「どうした、梅田?急に変な声を出して?」
「いや……。なんか、この会話の流れ……。以前も同じように、なんか話題ねぇーのかよって、お前と話してたような気がするんだけど……?」
梅田は、気づいてはいけないなにかに気づいた。
「気のせいだろ。気のせい。気のせいに違いない。うん。絶対にそうだ、うん。うん」
何故か、もの凄い勢いで梅田の違和感を消そうとする星野。額から汗が流れる。
「お、おう……。そ、そうだよな……。気のせいだよな……気のせい……。毎日、毎日、同じようなことの繰り返しだからデジャブでも起きたんだろうな……」
梅田は缶コーヒーを飲んで、自分が感じた違和感を流す。
額の汗を拭いながら、星野は口を開く。
「そ、そういえば、話題なら一つだけあったよ、うん。一つだけ。それでいいなら、聞いてくれないか?」
「お、おう……」
何故かいつもと違い、早口で喋る星野に妙な違和感を感じつつ、梅田は聞き耳を立てた。
「こないだ、俺の親父が健康診断を受けたんだよ」
「へぇー。お前の親父さんが健康診断をなー。へぇー。会ったことないけど」
「それで、数日前にその健康診断の結果が返ってきたんだ」
「お、おう。それで、どうだったんだ?」
「……」
星野の表情が暗くなった。
梅田はそんな彼の表情を見て、嫌な予感がした。
「え!ま、まさか、お前の親父さん……!?」
「……。肺に異常があったんだよ……」
星野の言葉に、梅田は絶句した。
虚な表情で、缶コーヒーを飲む星野。
言葉を失う梅田。
「親父の肺に異常があるって診断結果が来たとき、親父はショックで顔が真っ青になっていたよ……。そして、お袋と兄貴もショックを受けてた…」
衝撃の告白に、思わず缶をギュッと握りしめる梅田。
父親の肺に異常があると言われた時、星野はどんな気持ちだったのか、梅田は想像すら出来なかった。
だが、それとは関係なく、梅田は星野に兄が居るということを今、初めて知る。しかし、話の腰を折りそうなので、その件については今は流した。
星野は陽が沈んできた空を見上げる。
「本当にびっくりしたなぁ……あの時は……」
切ない表情で、星野は沈んでゆく夕陽を見つめる。
なにも言えず、やり切れない表情の梅田。
そして……。
「……それで一昨日、病院から電話が来て、実はレントゲンのミスで肺に異常はなかったってわかったんだけどな……」
ズコーッ!と、梅田はベンチから滑り落ち、思いっきり地面に尻もちをついた。
缶コーヒーが手から離れ、中身が宙を舞って地面に降り注いだ。
驚く星野。
「お、おい、大丈夫かよ!梅田!!」
「あ、ああ……大丈夫だ……」
正直、梅田は「誤診だったのかよ!!」とツッコミを入れたかった。
しかし、病気だと思ったら病気じゃなかったという話なので、ここでツッコミを入れてしまったら「じゃあ、病気だと良かったのかよ」という解釈になってしまう。
なので、梅田はツッコミを堪えた。
そういうつもりで言ったんじゃなくても、そういうつもりに聴こえるようになってしまった今の世の中……。
本当に日本語って、難しいな……と梅田は思うのであった。
中身が空になった缶を拾い、再びベンチに座る梅田。
星野は話を続ける。
「念のため、昨日、もう一度、親父は肺の再検査をしたけど、やっぱり肺に異常はなかったよ。どうやら、レントゲン写真を撮っている時に横隔膜と肋骨が重なると、肺の中に異物があるように見えてしまうらしいんだ。それで、医者が誤解してしまったらしい」
「そ、そうなのか……。とりあえず、親父さん、何事もなくて良かったな……」
「ああ。でも、誤診だとわかるまで、いろいろ大変だったよ……」
大きくため息をつく星野。
誤診だとわかるまでは、本当に肺に異常があると思っていたわけなのだから、確かに星野の家族はいろいろと大変だったに違いない……梅田はそう思うのであった。
「それで、そのあと、SNSに親父の肺に異常はなかったと書き込んだよ」
「え」
この時、梅田は星野がSNSをやっていることを初めて知った。
完
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