「シン・竹崎久雄(55歳)」
いつからだろうか……。
50mほどの巨大な身体を持つ二足歩行の獣……いや、巨大生物……。通称、『怪獣』たちが普通に街に現れるようになったのは。
この巨大な身体を持った怪獣たちはなにが目的なのかわからないが、突然、街に出現し、ビルや家などを次々と破壊していく。
その怪獣による被害は目を覆いたくなるほど、悲惨だ。
怪獣が出始めた最初の頃は、この国の自衛隊が所有する戦闘機や戦車、銃火器などで怪獣を退治することが出来た。
しかし、怪獣たちは途切れることなく次々と出現。人々に休む暇さえ与えてくれない。
さらに、より強く、狂暴で凶悪な怪獣たちも出現するようになり、だんだん、日本の軍事力ではどうにもならなくなっていった。
ある日、小さな街に怪獣が地面から出現。
突然の怪獣の登場に、自衛隊の対応が遅れていた。
街はあっという間に火の海と化し、地獄絵図そのものと化す。
誰も絶望し、希望を失った時……。
『彼』が現れた。
口から火を吐き、暴れ狂う怪獣の目の前。
とてつもなく強い光を放って『彼』が現れた。
突然、現れた『彼』に驚く怪獣。
そして、絶望した人々は、怪獣の前に現れた『彼』の姿を見つめる。
そう、『彼』の名は……。
「あ、どーも……」
竹崎久雄(55歳)である。
身長50m。体重5万5千トンのどこにでも居る巨大な50代男性だ。
彼は白髪交じりのオールバックの髪型で、白のポロシャツとグレーのズボン、黒い革靴を身に着け、怪獣の前に立っている。
「あ、どーも、はじめまして……。竹崎久雄と申します……」
竹崎は怪獣に挨拶をした。
怪獣は何が起きたのは理解できず、叫び声を出す。
怪獣だけではない。街の人々も、いきなり現れた巨大なおっさんに愕然とし、言葉を失う。
竹崎は怪獣に顔を向け、
「あ、あの、ですね……。怪獣さん……。街、壊すのやめてくれませんか?なんていうか、その、凄い近所迷惑なんですけれども……」
と丁寧に話しかけた。
怪獣は、また大きな叫び声を放つ。
竹崎は耳を塞ぐ。
「うわっ!びっくりしたなぁ、もう!いきなり、大きな声を出さないで下さいよ、もうー」
怪獣は竹崎に向けて、口から火を放った。
竹崎はそれを避け、
「あっつ!熱い!熱いですってば!!もう!!」
と、怒り気味に叫んだ。
「あんたね!いきなり、人に向かって、火を吐くことないでしょう!?危ないじゃないですか!!一体どういう教育を受けてきたんですか!?まったく、もう!!」
竹崎は、怪獣に怒鳴った。
怪獣とは基本的に暴れる、叫ぶ、壊すしか出来ないはずなのだが、怪獣は今、竹崎に困惑している。
「大体ね!常識的に街を壊しちゃ、ダメでしょう!?近所迷惑ってレベルじゃないですよ、これは!?よく、こんな酷いこと出来ますね、あなた!?それでも、人間ですか!?」
竹崎は怪獣に指を差して怒鳴るが、相手は人間じゃない。怪獣だ。
心なしか、怪獣はしょぼくれている。
竹崎は、避難している人々に指を差した。
「ほら、ごらんなさい!!あなたのせいで、こんなにも多くの人たちが迷惑しているんですよ!!わかってます!?」
怪獣は大きく叫んだ。
すると、竹崎は怪獣の顔にビンタした。
痛がる怪獣。
「人が話をしている最中でしょうが!!なに叫んでいるんだ!まったく!!なんなんですか、最近の若者は!?すぐ怒られると、すぐ反論して!素直に反省ってものが出来ないんですか!?」
竹崎は怪獣の頭部を人差し指で強く突く。
嫌がる怪獣。
「だ・か・ら!街を壊すのをやめなさいって、私は言っているんです!!なんで、わからないんですか!?明日、私、仕事があるんですから、もうそろそろ街を壊すのをやめてもらわないと、本気で困るんですけど!!」
竹崎は唾を飛ばしながら、怪獣に叫ぶ。
怪獣は怯んでいる。
「あー!もう!あんまり、聞き分けがないようなら、M7〇星雲在住の巨人の方々を呼びますよ!!」
竹崎はそう言って、ズボンからスマートフォンを取り出した。
当然だが、巨大な竹崎が持っているスマートフォンも巨大だ。
スマートフォンを操作する竹崎。
すると、
「あの、やめてください!M7〇星雲の方々を呼ぶのだけはマジでやめてください!!あの人たちが来ちゃうと、僕、倒されてしまいますから!!光線を喰らって、爆発とかしちゃいますから!!」
と、今まで叫び声しか出さなかった怪獣が流暢な日本語を話し始めた。
スマートフォンを操作する手を止める竹崎。
「あなた、喋れたんじゃないですか!?なんで、最初から普通に喋らないんですか!?」
「だって、その……。怪獣が言葉を喋ったら、その……なんていうか、イメージが崩れるでしょ……」
「これはイメージとか問題じゃないでしょ!?こっちはね!あんたらに、街を壊されて迷惑だって話をしているんですよ、まったく!!」
竹崎は怒り、怪獣はしょんぼりしている。
人々は竹崎と怪獣の姿を見て、いろんな意味で、もうどうしたらいいのかわからなくなっていた。
完
※シン・ウ○トラマンへのリスペクトの気持ちを込めて書きました。
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