「泣ける映画」

「なあ、あの映画観た?」

「ああ。観た観た。マジ泣ける!!」

「だよなー。マジ泣けたよなー」


 電車の中。ちょうど今は帰宅時間で電車の中は、満員だった。

 目の前に居る男子高校生二人が吊革に掴まって、会話をしている。

 私は椅子に座って、本を読んでいた。


「本当にあの映画、やばい!マジ泣ける!!」

「ああ。俺も半信半疑だったけど、マジで泣いちまったよ!!」


 男子高校生二人の会話は盛り上がっているが、私はそれを冷めた目で見ていた。

 映画の感想は個人の自由だし、どんな感想があっても良いとは思うのだが、なんというか、あんまりにも過度に『泣ける』を連呼されると、私の場合、冷めてしまうというか……。

 というか、この二人、一体なんというタイトルの映画を観て泣いたんだ?


「いやー。それにしても、あの映画、本当に泣ける!!」

「うんうん!泣ける、マジ泣ける」


 ……。

 だから、一体なんの映画を観て、泣いたんだ?

 盗み聞きしているようでなんだが、そこまで言うと、さすがに気になるというか。


「いやー、本当に泣ける!」

「うんうん!!すっげー泣いちまったよ、俺!!」


 だから、なんの映画を観て泣いたんだ、君たちは!?

 あと、感想が『泣ける』以外にないのか!?

 泣いたにしても、どういうシーンで泣いたとか、そういう感想はないの!?

 なんだか、だんだん苛立ってきた。


「いやぁ、本当、ボロンボロン泣いたわ」

「ああ。俺もギャンギャン泣いたわ」


 だから、泣いたって感想はもういいんだよ!しかも、擬音までつけやがって!!

 なんてタイトルの映画で、どういうシーンで泣いたかを話せよ!!

 私は本を読むのをやめ、気づけば、男子高校生二人を見つめていた。

 すると、私の視線に気づいた男子高校生が。


「……あの?そこの人……。なんか、俺らに用っすか?」

「あんた、さっきから、俺らの事を睨んでるみたいですけど、なんか言いたいことでもあるんですか?」


 いかん!つい、二人の会話が気になって睨んでしまったようだ。

 ここは、普通に謝罪しよう……。


「あ、いや、そのー……。すまない……。別に睨んでいたわけないんだ……。ただ、君たちが観た映画がなんなのか、つい、気になって……その……」


 正直に私は話した。


「あ。なんだ、そういうことっすか」

「盗み聞きしたみたいで、すまない……。ただ、キミたちが話している映画のタイトルが気になって……」


 男子高校生二人は笑った。


「はい。俺ら、今上映中の映画の話をしていたんですよ」


 うん、それはわかってる。


「あの映画、本当に泣けるんですよ」

「うん、マジであの映画泣けるんですよ」


 うん、うん。それはわかったから。


「すっげー泣けるんですよ、あの映画!」

「俺、グワングワン泣きましたよ!!」


 いや、泣いたのはわかったから、タイトルをだな……。


「やっべぇ泣ける、あの映画!!」

「ウルトラ泣けるぜ、あの映画!!」


 私の中でなにかがキレた。


「だから、タイトルを言えーーーーー!!!」


 電車中に私の声が響き渡った。



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