「奇妙なカニ」

※流血、スプラッターな描写が含まれております。



 ある日の午後。アパートでゴロゴロしていると、実家から荷物が届いた。

 発泡スチロールの箱だった。

 一体これはなんなのか、実家の母に電話した。


「こないだ、商店街の福引でカニが当たってねー。でも、あたしもお父ちゃんもカニが嫌いだから、あんたに送ることにしたのよー。まだ生きているから、気を付けて食べなさいよー」


 オイオイ……嫌いだからって、いきなり送り付けるなよな……と母に言っておいた。

 だが、私はカニが嫌いではなく、むしろ好きだ。

 なので、このカニはありがたく頂くことにした。



 その日の夜。

 友人の古前田こまえだを呼んで、二人で酒を飲みながらカニを食べることにした。

 箱を開けてみる。

 すると、中には大きなカニが一匹入っていた。しかも、まだ動いている。

 これを見て、喜ぶ古前田。


「ウホホー!!すげぇ、でっけぇカニだなー、オイ!!しかも、まだ生きてるじゃあないか」

「んじゃあ、早速、茹でるか」

「おおう」


 古前田はカニを掴もうとした。

 だが、その瞬間。


「ぎにゃあああああーーーー!!!!」


 古前田の人差し指がカニのハサミに挟まれた。

 それを見て、私は笑った。


「オイオイ、なにやってんだよ、ハハッ!!」

「痛い!!痛い!!痛い!!」


 古前田はかなり痛がっている。

 しかも、カニのハサミがギリギリと古前田の人差し指を挟み込んでいく。

 私は笑うのはやめた。


「お、おい、大丈夫かよ……」

「大丈夫じゃな……痛い!!痛い!!ぎゃあああああ!!!!」


 古前田が大きな叫び声を出した。

 すると……。


 バッチーン!!


「え?」


 古前田の人差し指が宙に飛んだ。


「ぎゃああああああ!!!!」


 手から血を噴き出し、叫ぶ古前田。

 人差し指が床に落ちた。


「な、なんだってぇえええーーー!!!」


 私は叫んだ。

 このカニ!古前田の指を……古前田の指を切っただと!?

 カニは古前田の血で真っ赤に染まっていた。

 私は古前田に駆け寄る。


「大丈夫か、古前田ァ!!」

「俺に近づくなァ!!」


 古前田は切られた人差し指の根本を押さえながら、叫んだ。


「そのカニは、ヤバイ!?なんだかわからないが、かなりヤバイカニだ!!」


 私は周囲を見渡した。

 ッ!?

 いない!?

 いつの間にか、カニが居なくなっている!!?

 そんなバカな!一瞬、目を離しただけだぞ!!


「この部屋のどこかに、カニが!カニが隠れて、お前を狙っているッ!!」


 古前田は自分の服を破って、斬られた指を縛り、止血した。


「奴はお前の指も斬るつもりだぁああーーー!!?」


 叫ぶ古前田。

 どこだ!?どこにカニは消えたんだ!!

 部屋の中を見渡す。

 どこにも見当たらない!

 どこだ!奴はどこに……。

 すると……。


 ドン!!ドン!!


 部屋のドアを叩く音がした。

 誰だ!?こんな時に!!?


「ちょっと、お隣さんー!!うるさいんですけどー!!?」


 この声は、隣の部屋のおばさん!!

 さっきの古前田の声で、この部屋に来たのか!?

 だが、今、それどころではな……。


「ぎぃにゃああああああーーーー!!!!」


 !?

 隣のおばさんが大きな声で叫んだ。

 私は慌てて、玄関のドアまで駆け付けた。


「どうしたんですか!!」

「か、カニが!?カニがあたしの、あたしの右手の人差しにぃいいいーーー!!!」

「なんだとぉおーーー!!!?」


 バカな!!

 カニはいつの間にか、外に出ていた!?

 そして、お隣さんの指を挟んでいるというのか!!?

 バカな!ただのカニだぞ!!どうやって、この部屋から外に!!?

 私はドアを蹴破って、裸足のまま、部屋の外に出た。

 だが、既に遅かった。


「うぎゃああああーーー!!!」

「お隣のおばさぁあああーーーん!!!」


 お隣のおばさんの人差し指も、既にカニに斬られていた。

 斬られたおばさんの人差し指は、血を飛ばしながら宙を舞う。

 カニは、お隣のおばさんの足元に居た。

 返り血を浴びて、カニは更に赤くなっていた。


「貴様ぁああーーー!!!」


 私はカニを足で踏みつけた。

 カニは私の足の下でもがいている。


「このまま、一気に踏み砕いてやる!!」


 私は足に体重を乗せて、カニを踏みつぶそうとした。

 だが……!!


「ハッ!!」


 硬い!!

 バカな!!70キロはある私の体重を受けても、カニは潰れない!?


「なんだとぉおおーーー!!?」


 ここまで頑丈だと言うのか、このカニは!?

 私はすかさずカニから足を離した。

 カニはハサミを振り回し、私の足の裏を斬った。

 なんという切れ味だ!?


「うりゃああああーー!!!!」


 私はカニ向けて、拳のラッシュを繰り出した。

 放った拳はすべてカニに命中した。

 だが、カニは無傷だ。

 逆に私の拳がズダズダになった。

 このカニの甲羅、想像以上に硬すぎる!


「ぐっ!!」


 血に染まったカニは、まるで私を睨みつけているようだった。

 私もカニを見つめる。

 私の両親が送ってきた、このカニ……。

 一体、このカニはなんなんだ!!?




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