「彼はカレーが嫌い」

 これは私の友人であるAが実際に語ったことだ。


「俺、カレー嫌いなんだよ」


 ……。

 正直、カレーが嫌いというのは、私には理解しがたかった。

 何故なら、私はカレーが好きだからだ。

 だが、誰にでも食べ物の好き嫌いというものはある。

 私はカレーが好きだが、Aはカレーが嫌い……まあ、そんなこともあるだろう。


 ちなみに、私は生魚が苦手である。

 マグロの刺身とか、生魚が食べれない。あの、ねちょっととした食感と魚特有の生臭さが苦手だ。

 だから、焼き魚じゃないと私は魚が食べれない。

 それと同じような理由で、Aはカレーが嫌いなんだろう。

 まあ、誰にでも食べ物の好き嫌いはある。

 そんな話だ。


 ちなみに、何故、カレーが苦手なのかをAに聞いてみた。


「だって、カレーってカレーの味しかしないじゃん。カレーってどこまで行ってもカレーじゃん。いくらカレーを食べても、カレーの味しかしないじゃん」


 ……。

 想像以上に、重度のカレー嫌いだった……。

 私は言った。

 そりゃあ、カレーなんだから、どこまで食べてもカレーの味しかしないだろう……と。

 Aは反論した。


「あのさ、ごはんにカレーかけたら、カレーライスになるだろう?うどん、そばにかけたら、カレーうどん、カレーそば。ラーメンにかけたら、カレーラーメン……。カレーをかけたら、なんでもカレーになっちまうだろうが!!」


 君は、カレーに大事な人でも奪われたのか?


「俺はカレーのそういう傲慢さが嫌いなんだよ!なんでもかんでも、カレーにしてしまう、カレーのあの傲慢さが!!」


 だんだん、話のスケールが大きくなっている。

 カレーに傲慢もなにもないだろう……。

 そして、インド人に謝ろうか。



 後日、違う友人のBにそのことを話した。

 Aという、カレーが凄く嫌いな奴が居ると。

 その友人Bは、今度ある事情で、そのカレー嫌いの友人Aと会うことになっていた。

 なので、私は「Aという、めっちゃカレーが嫌いなヤツが居るから、よろしく言っといて」とBに伝えた。



 数日後、友人のBと私は会った。

 私は友人Bに、友人Aのことについて聞いた。

 どうだった、Aのヤツ?あいつ、めっちゃカレー嫌いだって語ってただろう?と私は言った。

 すると、友人Bは、


「実際に、そのAさんに会って『カレー嫌いなの?』って聞いたら、『いや、そんなに嫌いじゃないです……』って言われましたけど……」


と答えた。


 友人Aよ、お前が私に語ったあのカレー嫌いの情熱はどこに行った?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る