4ー8 ナギサイド

 ロゼッタと合流した、カチュアとエドナ。


「まったく、あなたは何をやっているのか?」

「ロゼちゃん、どーしてここに~?」

「ルナ達に聞きました。皆は無事に脱出しましたよ」

「そっか~。よかったわ〜」

『カチュア! 呑気に話している場合か?』


 周りには魔物が。狼型だったり、オークだっり。目視できる範囲で二十体いる。まだ、こんなに、いたのか。


「さあ、いきますよ」


 やる気があるのはいいのだが、魔物の集団に囲まれているよ。


 ロゼッタを、囲むように魔物たちが襲い掛かる。だけど、ロゼッタはいつの間にか、魔物たちの円から抜け出していた。それどころか……。


 ブッシューーーーー!!!


 魔物の体から、血が噴き出ている。いつの間に、傷を負わせたんだ? 驚くほどの早技だ。


 また来る。あれは二足歩行の狼は見たことがあるな。確か、マナーガルムだっけ? そのマナーガルムはロゼッタ目掛けて殴りかかる。


 カキーーーン!!!


 ロゼッタの目の前には、やたらと光る盾が現れ、マナーガルムの攻撃を受け止めた。しかし、それだけではなかった。


「光れ! 盾よ!」


 盾から、さらに光を放った。マナーガルムを吹き飛ばれていった。マナーガルムの体が、砂のように崩れていった。


 あの光の盾は、カウンター可能な魔術みたいだ。


 ロゼッタも、もの凄い実力の持ち主だ。一人で、二十体も倒してしまった。


「これで終わりですか?」

「うんうん~。まだいるよ~」


 ドスン、ドスンと大きな足音がこちらへ向かってきた。そして、その姿が現れてきていた。


 それはパッと見て、三メートルの大きさを持つ、二足歩行の牛だった。


 これはカチュアの仲間? いや、ふざけている場合じゃない! この姿は知っている。確か……。


「ミノタウロスね。カチュアの仲間ね」


 あー、そうそう、確か、ミノタウロスって、名前だっね。


 って! あんたも、ふざけている場合かよ! 後、私と同じネタ使うなよ!


「ひどーい、わたし、こんな牛顔じゃないよ」


 ロゼッタが言いたいのは顔じゃないよ。その豊満なボディのことだよ!


「困りました。ミノタウロスは上級魔物。刃が通りにくい、らしいよ」


 バキーーーン!!


「あら~、ほんとだ~」


 カチュアはミノタウロスに一本斬り付けた。ミノタウロスは後方へ吹き飛ばされていった。


「人の話を最後まで聞けよ!!」


 すいません。人の話を、最後まで聞かない人で。


「だって~。今でも襲いかかりそうだったのよ~」


 それなら……仕方がないか。でも。


「やだ、剣が」


 剣が折れてしまった。元々、あの蛙の粘液で、剣がダメになっていたから、いつ壊れてもおかしくはなかった。


「相変わらず、剣をよく壊しますね」

「長く保った方よ~、一ヶ月ぐらいは保ったわ~」

『一ヶ月でも、短いわ』

「まあ、あなたにしては長い方ね。以前は、長くても、一日しか保てなかったから」

『あんた、エドナに会う前は、剣を一本は持っていたよね? どこで調達したの?』

「わたしは、男の人に襲われやすいのよ~。その達に、襲われた時に、剣を奪ってからお仕置きしたのよ〜。で、剣を返したら悪さするから、わたしが預かっていたのよ〜。でも、エドナちゃんと出会うまでは、その繰り返しだったわ〜」


 あなたは、その預けた剣を壊していますけどね。


「一人で何喋っているのですか?」


 あ! 側から見る、変人だよね。まだ、ロゼッタには、私の存在は知らなかったんだった。私が精神体でカチュアの体に入ったのは、つい最近の話だから、ロゼッタはこのことは知らないと思う。多分。


「すご~く、不愉快な独り言のようで」


 ロゼッタの目が怖くなっているよ。男の人に襲われやすい、原因は恐らく体。つまり、大きく実った胸目当てだ。まさに、ロゼッタが嫉妬してしまうものだ。


 いや。こうしている間にミノタウロスが戻ってきた。


「あらあら~。戻って来ちゃったわ~。どーしよう~。わたしの剣は壊れているし」

『呑気に言っている場合か! こっち来るよ』


 ミノタウロスは棍棒を構えながら向かってくる。ロゼッタは槍で受け止める。その間にカチュアはミノタウロスの腹部を殴りつけ、ミノタウロスを後方へ飛ばす。ロゼッタの槍は光りだし、ミノタウロス目掛けて、無数の突きを繰り出す。刺したところには焦げ後が。


 しかし、しぶとい。しぶと過ぎる。マナーガルムなら倒せる攻撃では、ミノタウロスは倒れない。以前のフェンリムも、かなりしぶとかった。何とか、倒したが。


「いくら、カチュアのバカ力でも、上級魔物を倒すのは難しい。少なくっても、カチュアが魔術を使えれば」

「わたしは~、使えないのよ~」

「そうよね。私は魔術を使えるが、強い魔術は使えないのよ。恐らく、表面を焦がすだけ」

「それじゃ、倒せないの?」

「いや、少しでいい、傷を付けられればいいのよ。上級魔物は倒しにくいが、無敵じゃない。有効な攻撃で体を削って、体内にある魔石を破壊すれば倒せるわ」


 なるほど。となると、上級魔物の戦いは、本来長期戦を想定しないといけないのか。


「なら、あたしの弓で……」


 エドナは風の矢を使って弓を引こうとした。さっきの蛙もあるから、案外効くかもしれない。だけど、ロゼッタの話の通りにすると、風の矢がミノタウロスの体を貫通しないと、何発か打ち込まないといけない。そうなった、場合、どのみち、長期戦になってしまう。


「くるよ」


 ミノタウロスが近づいてくる。エドナは弓を構える。


 こういう時に限って、この子は転んだりしてたりして。さすがに、それはないか。


 ツルーーーン。


「あ!」


 もう、やっぱりかー! と思ったよ。


 エドナは蛙の魔物から出ていた粘液を踏んで足を滑らせた。


「はわわ!!」


 ドーーーン。とエドナのお尻が床に着いた時だった。


 ピキピキ!


「なんの音?」


 よく見たら、床にひびが入っていった。


 よく見たら、エドナの手に持っていた矢が、床に付いていて、それを中心にひびが入っていった。


 ピキピキピキピキ!


 どんどん、ひびが広がってきた。


 バカーーーン!!!


 そして、床が崩れた。それはカチュアやロゼッタ、そして、ミノタウロスの足場も崩れた。


「いやーーー!!!」


カチュアはエドナを受め抱えながら、崩れ落ちていく瓦礫を足場して、落ちていく瓦礫を飛び移りながら、脱出した。ロゼッタも無事みたいだ。


「危なかっわ~」

「はうう、ごめんなさいなんだよ」

「風の矢を作っていたところを見た時に、思ったんだが、エドナの魔術は強すぎるよ。恐らく将の位には、なれるんじゃないかしら」


 エドナの風の矢は何度か見ていたけど、あれは想像以上に威力があったのかよ。そんな危険物を今まで、使っていたのかよ。


 瓦礫の山からミノタウロスが出てきた。


『しぶと過ぎ、でしょ?』

「困ったね~」


 こんなのどう倒すんだ? ロゼッタの言ったことが本当なら、いつかは倒せる。だけど、それまでに体力が保つのか?


「……あ! そーだわ~。いいこと思いついたわ~!」

『何か、倒す、方法でも思いついたのか?』


だが、ミノタウロスの方は、瓦礫の山から、出てきたばかりなのに、カチュア達を、見つけた瞬間、再び襲い掛かる。


 バキーーーン!!


 ミノタウロスの持っていた棍棒を、カチュアの、ひと蹴りで棍棒を真っ二つに折った。ミノタウロスが怯んでいる隙に、カチュアはミノタウロスの腕を掴んだ。


『カチュア! どうする気なの?』

「え~? こーするのよ~」


 カチュアはミノタウロスをステージ側に投げ飛ばした。さすが、カチュアだな。あんな大きな魔物を投げ飛ばすなんて。いや、投げ飛ばしたところで、なんだって話か。


 グッサ!!!


 ミノタウロスが飛ばされた先のステージを見ると、ミノタウロスはステージの周りに設置していた、針山に突き刺さっていた。ミノタウロス自身、動く様子はなかった。

 

 そう言えば、あの針山は魔物の体を、貫けられる程の、貫通力があったんだっけ? 人なら体が粉砕されちゃうらしい。


 そっか! それを使えば、大抵の魔物は倒せるから、あの針山にミノタウロスを放り投げたのか。


「ふ~、なんとか倒した~」

「やっぱり、カチュアさんは、頼りになるんだよ」


 エドナがカチュアに近寄る。


 ようやくか。しかし、結構、苦戦した相手なのに、あっさり倒してしまうなんて。カチュアの咄嗟な判断のお陰か。


 カチュアが、あの針山の性質を聞いて覚えていたのが、救いだったな。話全く聞いていなかったと思っていたよ。


「ぐっう~!」


 え!? カチュアの呻き声!? 敵はまだ、いたの!? カチュア本人もいつの間にか倒れているし!?


「ごめんなさい。あたし、また転んじゃったんだよ」

「いいのよ」


 て! あんたかよ! エドナ! 


 また、エドナが転んで、カチュアにぶつかったのか。


「あの~、お二人さん。戯れついているところ、申し訳ないのですが。まだ、安心はできませんよ。ここに、いないだけで、まだ、魔物がいるかも」

「それならだいじょぶよ~。少なくっても、この魔物さんのような、デカい魔物さんの足音は聞こえないわ〜。それに、この足音は多分、人の足音ね〜。何人かが、この建物に入ってきているわ~」

「救援かな? それなら、私達は、怪我人か、逃げ遅れた人でも探すかな」

「それなら、あたしの出番だね」

「その前に、この瓦礫の山に、埋もれている人を助けないと~」

「瓦礫の山を?」

「嫌な、感じはするわ〜。だけど、見捨てるのは違うから~」


 カチュアは瓦礫の山を掘り始めた。


 ひとまず、賭博場の魔物騒動はこれで終わりかな?

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