4ー6 ナギサイド

 オークと聞けば、散々の言われようを受けた、オークに似たあのゲブンとかいう奴は? この騒ぎを、どうやって納めるんだ?


 ふっと、ゲブンがいた特等席の方を見てみると。


 あれ? いない! ゲブンどころか、オークの姿もない!


『カチュア! ゲブンとかいう奴、いなくないか!?』

「え~! ん~、ほんとだわ~」

「一人でとっとと逃げたんでしょ」

「こんな騒ぎなのに~?」

「ゲブンは無能ですから。奴に期待はしては、いけませんよ」


 本当に大丈夫なのか、あの将軍は? ルナが奴をぞんざいに扱うのもわかるな。てか、この帝国は国として機能しているのか? その前に、何で、あんな責任感ない奴が将軍やっているんだよ!


「とにかく、この状況を何とかしないといけませんわ」


 いつのにか、ユミルが落ち着いていた。


「あれ~、ユミルちゃん。さっきまで~、ゲブンとかいう魔物を斬っていたのに~」

「え!? わたくし、帝国の将軍が殺したんですか!? どうしましょう!? 国際問題ですわ!!」


 ユミルはパニックになっていた。それはクズ将軍とはいえ、他国の将軍を滅多切りして、殺してしまったから。実際にユミルが殺したのはオークだけど。カチュアも何気にゲブンを魔物の一種のように言っているし。


 話をややこしくさせた、カチュアに代わって、私が。


「貴方が、斬っていたのは魔物のオークだから!」

「え!? よかった~」


 もう、カチュアとエドナは、ゲブンとオークの区別がつかなくなっているのか? 確かに似ているけど。


「よくないですよ! この騒ぎに便乗して、ゲブンを始末しれば」


 話をややこしくするな、ルナ。確かに、怒りたくはなるだろう。将軍として、有るまじき行為をしてしまったのは事実だから。


『てか、呑気に会話している場合か! 早く行動に移せ!』


 カチュアたちの周りは魔物で、いっぱいだ。逃げ道なんて、どこにもない。


「取り敢えず、ユミル様。逃げ道を確保しました」


 一瞬だった。ソフィアは、どこかに隠し持っていただろう、数十本のナイフを取り出した。そして、数十本のナイフに雷を付着させた後、魔物の額目掛けて投げ、突き刺さした。それも、全部、命中している。


 この人が一番怖いわ。


「あれは~」

『どうした、カチュア?』

「あれ~、もしかして、アルヴス~?」


 アルヴスは右手で左肩を押さえながら、こっちに向かってきた。もしかして、怪我をしているのか!?


「兄様!」


 ルナはアルヴスの元へ駆けつけた。


「ルナか……、どうしてここに?」

「兄様こそ!」

「酷い怪我なんだよ。すぐに手当てをするんだよ」


 エドナはアルヴスに治癒術をかけた。アルヴスの傷は塞がってきた。


「それよりも、早く逃げろ……。魔物の収容所に何者かが、魔物の檻を開けてたんだ」

「そんな!!」

「お前は逃げろ……、俺は、奴らを追わないと……」


 アルヴスは立ち上がるが、体がフラフラしている。とても、戦える状態ではない。


「無茶です! その怪我では!」


 ルナの目には涙が。


 すると、カチュアは着ていたマントを脱いだ。


「ルナちゃんとユミルちゃん、それからソフィアは、アルヴスを連れて外に出て行って~。それでロゼちゃんを呼んできて欲しいの~。わたしが、魔物達を引き付けるわ~。エドナちゃんは、わたしに付いてきて逃げ遅れた人の、手当てをお願いしたいのよ~」

「あ! はい! わたったんだよ!」

「いや、けど……」

「皆の避難が先よ~」


 優しい気のある表情だが、いつも、戦闘するカチュアの雰囲気をただ寄せていた。


「そうだった、すまない……。大事なきことを忘れるところだった」

「怪我の手当てでしたら、わたくしも……」

「ユミルちゃんは、アルヴスを守ってあげて~」

「そういうことでしたら、任せてくださいませですわ」


 ルナとユミル、ソフィアはアルヴスを連れていくが。


「危ないんだよ!!!」


 ルナ達の前にオークが現れた。エドナは魔術で作った風の矢を弓に引こうとしたが。


「あっ!」


 ドーーーーーン!!!


 大事なところで、よく転ぶな、この子。


「はううう……、痛いんだよ!」


 あれ? 確か、エドナは風の矢を作り出していたよね? 転んだエドナの手元を見ると風の矢がなかった。


「エドナさん! 矢は!?」

「え? 矢なら……」


 エドナが、さっきまで風の矢を持っていた手を見つめた。


「あれ……? ない! 矢がないんだよ!!」

「あそこですよ」


 呆れ顔をしたルナの指先には、矢が回転しながら飛んでいき、矢に接触した魔物は、矢に当たった体の部分が切断していった。


「まるで、風神怒濤殺戮螺旋輪ふうじんどとうさつりくらせんりんって、ところですよ」


 ソフィアって、無表情で何を考えているのか、読めない人だけど、ネーミングセンスは中二病レベルだな。その無表情で毒舌が段々キャラ作りでも、しているじゃないかと、思ってしまう。


 しかし、あの、ネーミングセンスを聞くと、誰かさんを思い出な。……って、誰だよ!


 でも、ふざけた、ネーミングと裏腹に、あの回転しながら滑翔している風の矢は恐ろしい。エドナが転んだ結果だけど。やっぱり、エドナは転んだ方が凶悪だった!


 ドカーーーー-ン!!!


 何の音だ!? 音をする方を見ると、壁に大きな穴が空いていた。


 これは、風の矢は壁にぶつかり、壁に穴が空いたようだ。開いた穴の先を見ると、どうやら、その先は賭博場の外のようだ。


「脱出通路は確保したようですね。そこから、出ましょう」


 ユミルは翼を広げ、ルナを担いで、脱出。アルヴスを担いだ、ソフィアも続いて、飛び降りて、脱出。ただ、ユミルと違い、ソフィアは翼を出さないで飛び降りたよ。ここ何階だっけ?


「さて~、わたし達も行きましょ~」

「はいなんだよ!」


多分、ガルムという狼のような魔物が、エドナに襲い掛かってきた。


 シュパーーーーン!!!


 襲い掛かってきたガルムの体は、真っ二つに切れていた。カチュアがやったわけではない。


 そう、エドナだ。左手には風の矢を持っていた。


 一瞬の出来事だが、エドナはいつもの風の矢を作り出していたが、いつもと使い方がかわっていた。風の矢で剣を扱うかのように矢を横振りをして、ガルムに攻撃をした。ガルムの体は真っ二つに切れた。


「あら~、エドナちゃん凄いわ~。そんな使い方があったのね~」

「ソフィアさんに教えてくれたんだよ」


 そう言えば、セシル王国滞在している時に、ソフィアがエドナとカチュアに、戦闘技術を教えていたっけ? 何でも、自信の持つ戦闘技術を伝授させるのが、好きらしい。


 以外と面倒見あるみたいだ。付き人やっているぐらいだし。


 ソフィアはナイフを武器にするのに、風の矢の応用技をエドナに伝授させるなんて。本人曰く、ナイフを矢に変えたらしいよ。それだけで、こんな使い方を編み出せるわけ?


 しかし、油断はできない。魔物は次々と現れた。


 続けて、なんか気持ち悪い魔物が。あの魔物どこかで……。あれは……そう! 蛙だ! 蛙にそっくりな魔物が現れた。ただ、私の知っている蛙よりか人並みにデカい。蛙って、手の平サイズだったような? やっぱり、魔物か? あれは?

 

 蛙がエドナ目掛けて、体当たりをしたが、エドナは攻撃を躱わした。


 蛙が通った床が、なぜか、揺れている。水かな? なぜだろう、あまり、触りたくないわね。


「そ~れ~」


 カチュアは蛙に剣を当てるが、斬れずに蛙は吹き飛んだ。蛙自身も斬り傷らしいものが見当たらない。


「あら、あら~、無傷~? ……それに、やだ~、剣がベトベト~」


 カチュアの剣に、ヌメヌメした液体が付いていた。これは、あの蛙が出していたのか? 粘液ってやつかな? なるほど。


『カチュア。恐らく、奴は体に粘液を纏って、敵の攻撃から守っているんだ。カチュアの剣技は恐らく通らない』

「あっ! 本当だ~」


 カチュアは再び、蛙に剣を当てるが蛙を吹き飛ばすだけで、傷を負わしていない。


 いや、それよりも……。


『人の話を聞けよ!!』


 この蛙はどうやって、倒すんだ?


  すると、凄い突風が襲いかかってきた。よく見ると、弓矢だった。きっと、エドナの風の矢ね。


 矢は蛙の腹に命中。すると、カチュアの剣斬でも、斬れなかった蛙の腹は穴が開き、体を貫通させた。どういうこと? 考えてみたらエドナの風の矢は魔術で構成されたものだ。ということは。


『カチュア! あの蛙は魔術には効くみたい。蛙はエドナに任せて』

「あれ~、効かないわ~」


 なんていうか。


『だから、人の話を聞け!』


 また、カチュアがやらかしたよ。蛙に剣を当てるが蛙を吹き飛ばしたよ。当然、傷を負わしていない。飛ばされた、蛙は空中で体制を整えて、カチュアに襲い掛かる。蛙もしつこいな。何度、カチュアに飛ばされているのに。


 カチュアは咄嗟に剣で受け止める。だが、何度、剣を振り下ろそうが、あの蛙には斬撃は効かない。ここで、受け止めいる間で、エドナの風の矢を放つ手があるが。あの矢、放ったら当たらなくっても物凄い風が襲いかかるから、近くには居たら、危ない。たぶん、飛ばされるだろう。どうする? カチュア。


「それなら~」


 カチュアはまた、蛙を剣で振り下ろして、蛙を飛ばした。当然、切り傷はないが。


「斬るのが、だめなら~、潰しちゃうのよ~」


 怖いこと言っているよ。この人。しかし、潰すって、いったい、何をする気だ?


 一方、飛ばされた蛙はというと。


 べちょーーーん。


 あー。なるほど。斬れないなら、潰すって、そういうことか。


 飛ばされた蛙は壁に激突。蛙は、まるで、踏み潰された状態になっていた。てか、蛙の原型がなくなっている。


 グロい。めちゃくちゃ、グロい光景だ。


「やっと、倒したわ~。でも」

『どうしたの? カチュア』

「気のせいかな~、刃が減って、きているような」


 言われ見れば、大剣の刃部分の幅が狭くなってきているような。


「カチュアさん! あれ!」


 通路には、いっぱいに魔物が現れた。


「……何か~。くるわ~」

『 もう、来ているんだが』

「いいえ、これは……! エドナちゃん! 伏せて」


 カチュアはエドナを抱いて、通路の端に転がった。


 すると、魔物の大群から、血飛沫と同時に、槍を持った女性が現れた。


「お待たせ」

「ロゼちゃん」


 その女性はロゼッタだった。


「まったく、無茶するんだから」


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