第3話 アサシンカスミ、サクッと殺ります!
私が大体仕事に使うのは適当な刀です。
ニンジャソード的な、邪魔にならない程度の長さのやつです。
これでどうやって暗殺するのか?
知っていますか? 人は、刀で、刺すと、死ぬんです。これ暗殺者の豆知識。
要はこれでターゲットブッ刺してきたら終わりです。簡単でしょう?
まぁ、実際には適当にブッ刺しただけじゃ生存してしまう可能性も高いので、そこはきちんとアサシノの里で学んだ知識を持って助からない急所を狙います。
とりあえず仕事着となる闇に紛れる黒装束に身を包みます。
一応この世界には指紋を採取して分析する~みたいな技術はない(多分中世的な世界観です。あんまり出歩かないから詳しくは知らない。)ので必要かは分からないのですが、手袋も一応付けておきます。
そして仕事に使う刀をひとつ。別に使い慣れてるものではなく、里から支給される簡単なものです。
私以外の同業は、これ以外にもあれこれ不測の事態に対応する為の道具を持つらしいのですが、私はこれだけ。重い荷物は持ちません。
準備は完了、これよりターゲットの元に向かいます!
徒歩で山を降りる? ノンノン、山を舐めてはいけません。こんな軽装で渡り歩くのはなかなかに大変です。
そこで登場『恋愛百式』。
『何処へ行こうと言うのだね(ムービングマップ)』。
ある程度の広さの平面、たとえば机を用意します。
そこをトンと叩いて能力発動を意識すると、パッと広がるこの世界のマップ。
チェックポイントにピンを打たれているので、そこを指定すればチェックポイントにワープできます。
ゲームのマップ移動ができる、的な能力です!
これがあれば各地に飛ぶのもちょちょいのちょいやで! 一瞬で目的地にワープできるのです!
これで飛んだのは今回のターゲットがいる某国の貴族領。
人の見ていない物陰にワープをしたら、一旦身を潜めます。
ここから普通であればターゲットを捜す……のですが、それは『恋愛百式』を持ち合わせていない一般暗殺者です。そう、私には『恋愛百式』があるのです。
取り出しますは一枚の食パン。
これは私が普段から持ち歩いているものです。
これをぱくっと咥えます。別にお腹が空いたわけではありませんよ?
あくまで食べずに食パンを咥える。これが『恋愛百式』、その発動条件のひとつ。
『遅刻遅刻(イヌモアルケバボウニアタル)』。
食パンを咥えて、刀を胸元に構えます。
そしてその能力名と、ターゲットの顔を思い浮かべます。
そこから走り出せば能力は発動するのです。
食パン咥えて「遅刻遅刻~!」と駆けていけば、
ドスッ! と私は誰かにぶつかる。顔を上げればそこには
素敵なおじさまと顔が合います。
普通ならきゅんとときめく出会いのシーン。
残念ながら此度奪うは彼の
「あ?」
「お命頂戴。」
何が起こったのか分からないといった唖然とした表情で、おじさまが私の顔を見下ろしました。遅れてこふっと血を吐きます。
数回グリグリと刀を捻り、おじさまの力が抜けるのを確認してから刀を抜きます。
そのままおじさまはふらりと倒れて、ばちゃっと地面に血が広がりました。
周囲には誰も居ません。どうやらそこは屋敷の廊下だったようで、丁度ターゲット以外には誰もいないようでした。
見られたところで素早く脱出できるのですが、どうやら慌てる必要もないようで。
私は地面をトンと叩いて『何処へ行こうと言うのだね(ムービングマップ)』を展開します。
あとはアサシノの隠れ里を選んでそのままワープ。
無事に
自宅に戻り早速洗面所にある籠に凶器と仕事着を放り込むと、そのまま浴場に向かいます。
大して汗はかいていないし血の汚れは衣服で受け止めたので身体は綺麗なままですが、仕事終わりにはひとっ風呂浴びるのが私の日課です。
あとは明日になったら籠に放り込んだ仕事道具を洗濯したり洗ったり処分したり、という雑務はユリがやってくれる訳です。
ターゲットの死は今日中に広まるでしょうし、依頼者の耳に入ればお仕事はおしまいです。
どうです? 簡単でしょう?
そう、簡単すぎるのが考え物なんです。
私の目標はあくまでこの世界で恋をすること。殺しをすることではありません。
こんなサクサク殺りまくれちゃうと、手に入るのは恋じゃなくて良くて命乞いなのです。そんな乞いなんて後味が悪いだけなのです。
同僚の女の子は暗殺任務で外に出たついでにあれこれ手こずり活動する内に素敵な出会いをして、駆け落ちとかしちゃったりするのに、私はサクサク終わりすぎて外で人と会うこともありません。優秀過ぎちゃう故の悩みです。
里の中で出会いを探そうにもめぼしい相手はいませんし。というか里ですら避けられてるからどんな男がいるのかよく分からないし。
マジであの女神、次会うことあったら殺す。
おっと、いけない。顔を洗って殺気をリセット。
暗殺者として育てられたせいですぐに殺意が溢れてきていけません。
浴槽につかって一息つきます。そう、その殺気が里の男を遠ざけているのです。
常に自分を律して冷静に生きなければなりません。
今はまだ我慢の時。
お金を貯めて、力をつけて、授かった力を更に上手く使いこなせるようになって……そして、いつかどこかで、私は私に相応しい素敵な殿方を見つけて恋をするのです!
世界が私の気に食わない形なら、私の力でねじ曲げてしまえばいいのです!
アサシンカスミ、目標の為に頑張ります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます