第31話

 しかし頼光は落ち着き払い、

「まあまあ、しずまりたまえ。あなた方のお力、ようわかりました。我ら人のごとき、あなた方には到底叶うほどのものではございません。しかし我らは家や社を造るのが得手にて、あなた方のために社を建てとう存じまする。必ずや、あなた方のお力を表すような、荘厳なものを造ってご覧に入れ、あなた方をお祀りいたします。この男は特にその得手えてでございます。何卒なにとぞ、何卒お許し下さりませ」

このようにかき口説くと、地神たちはその言葉を聞いたものか、ひととき押し黙った。

「もうひと押しです。中納言殿からも詫びて下され」

 頼光がささやくと、腰の抜けていた行平は必死で起き上がり、「何卒お許し下さいませ」と頭を下げる。

 頼光は「もっと、もっと深く頭下げて!」と指示しながら、また地神どもに向かって、

「大変申し訳御座いませんでした!」

と大音声して、頭を床に打ちつけた。行平もあわててこれにならった。

『人はすぐ偽りを申し、まこと信用ならぬもの。しかしそこまで頼みこむならば、聞いてやらぬこともない』

 地神がこう言うので、二人が安心して顔を上げようとすると続けて、

『では人がおそれおののくような社を建てるまで、待ってやろう。代わりに、社ができあがるまで、貴様の子を預かるぞ』

 地神は手を伸ばし、猫の子を持ち上げるように末丸を宙へぶら下げた。末丸は限りなく泣いて、父の行平の方へ手を伸ばそうとする。

 すると行平は、地神どもの前へ這い出て、

「そればかりは、お許し下され。何卒お許し下され」と、幾度も頭を下げた。

 地神どもはこれを聞かず、末丸を連れて風となって邸を去っていこうとする。行平はおそれも忘れて大将の足にすがりついて、

「わかりました。私の命を取って下され」

と言うのだった。頼光が止めても行平は引き下がらず、何度も地神に訴える。

 すると地神は不思議そうに唸って、

『貴様には他にも子がおろう。一人捧げても、まだ何人も子が残るではないか』

と言った。行平は、

「左様です。しかしこの末丸は一人きりです。あと十一人の子があったとしても、誰も末丸の代わりになる者はないのです」

と、さっきまで腰を抜かしていたとは思えぬ様子で、このように答えた。

「あなた様方を怒らせたのは、この私です。どうか末丸を放して下さい。たとえ、たとえ我が身を引き裂かれようと構いませぬ」

『強欲なものじゃ。貴様は我らが土地を踏み荒らし、奪おうとした。しかし己が財はひとつも失いたくないと申す。ならば望み通り、貴様の命であがなえ』

 地神は末丸を放り出し、行平へと手を伸ばす。

 その間に頼光が割って入り、「やれやれ」とため息をついた。

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