第813話 蛾的に。

過去、虫のエピソードを何度か載せたことがある


JR神戸線のカナブン事件。

歯医者のセミ事件。


神戸にて。


20時45分、JR三ノ宮駅のホームに上がると同時に


「先ほど新長田駅におきましてお客様と列車との接触があったため、只今より運転を見合わせ・・・」


アナウンスが入る


こりゃダメだ動かんわ、とホームから改札口へ逆戻りする


まだホームには粘る乗客が沢山いたが、1時間は動かないだろう


改札を出ると、急いで隣接する阪急電車の三ノ宮駅へと向かう


俺と同じく見切りをつけたJR客が、大量に阪急電車の改札に吸い込まれていく


これは、下手をすれば阪急もぎゅうぎゅうかも知れん


じわっと蒸し暑いなか、階段を上がってホームに出た


ちょうど普通電車が発車したところで、JRから流れてきた第一弾の乗客は、駆け込みでそれに乗ったらしい


ホームが空いた。

次は特急・梅田(大阪)行きとなっている


おっタイミングが良かったようだ、適当に並ぶ


先頭は大学生だかの兄ちゃんで、俺は2番目だ


しかし次の特急が来るまでにはまだ10分あり、次第にホームに人が溢れてくる


並んでいる我々も少しずつ詰めていく


そこで初めて気付いたのだが、先頭の兄ちゃんのTシャツの襟首


初め汚れかと思っていた茶色のシミが、体長1.5センチほどの蛾だと分かった


先ほどから微動だにせず、ピタと止まったままだ


さて、ホームは夏祭りの参道のようになってきた


クソ暑いなか人がひしめき合い、俺も汗が止まらない


時計を見ると、特急の到着はあと1分少々


程なく電車がホームに入ってきた


停車し、扉が開く


電車自体は空いており、先頭の兄ちゃんは乗り込むと直ぐに、空いていた座席に座る


と同時に蛾が飛び、何を思ったか俺の顔に向かってきたが


避ける間もなく後ろから押され、蛾の所在が確認できないまま


入ってきた扉の反対側の扉まで一気に押される


ドアに押しつけられたまま閉まるのを待つ・・・


電車が発車する


発車した揺れで少し、押されていた密空間から解放された


汗が止まらない


ところで蛾は?


扉に映る自分を見るが、外が暗いので良くわからない


そのうち高層ビルのネオンが近づいてきたので映った自分を凝視する


おるがなマスクに。

それもちょうど鼻のてっぺん辺りに。


うわ〜この状態。誰かに気付かれてるかな?


蛾を付けたままキョロキョロ出来ないので、視線だけで軽く見回す


あ〜横に立っとるオッサンに見られとる・・・


俺は扉の外を向いている状態だが、そのオッサンは扉に左肩を預け、進行方向に向いて立っているから


俺の左の横顔をまともに見ている状態だ


そして俺の蛾にしっかり気付いているみたいだ


・・・俺の蛾じゃないけど。


とりあえずこの先、岡本という駅で停車するので一旦、降りなきゃならんだろう


そこでさり気なく振り払うか


岡本まではあと数分だな・・・仕方ない、こいつを付けたまま我慢・・・あっ!


こいつ登ってる。


マスクの上を、ゆっくりとだが


右足、左足、右中足、左中足・・・上がってくる(ー ー;)


待て待てもうすぐ顔なんだが。

マスク超えたら直に鼻筋なんだが。


それはやめて・・・


しかし次の岡本駅に着くまでにコイツ、余裕でマスク越えよる


どうする?

いま顔振る?


いや〜今更どうなんかな・・・あっ!

隣のオッサンめっちゃ見とる(気がする)!

そうこうしてる間にもガラスに映る蛾は、あと一歩でマスクの境界線を越えようとしていた


・・・が。蛾。


確かに一瞬、鼻筋に、何かが微かに触れた気がした直後


蛾はピタリと止まってしまった


そして10秒ほど静止したあと、突然落下した


えっ?

どこ行った??


ポロッと落ちていったのだ

蛾の突然死なんて、あるのだろうか


行方を知りたいが下を向けない



・・・さて皆様、蛾の触覚をまじまじと見たことはあるだろうか


大阪のホテルにチェックインしてから、ググって調べてみた


蛾の触覚は、蝶と違って沢山の毛で覆われており


そこが対象物に触れると、大量の活動電位(刺激によって細胞膜に発生する電気エネルギー)を生成し


それを脳や体全体に素早く伝えるのだ


蛾は、匂いに超敏感らしい


蛾の触覚をドローンに移植して、匂いセンサーとして使う研究もあるそうだ


つまり俺は、蛾的に臭かったと。

10秒我慢したが、気絶したと。


K.O.(=´∀`)人(´∀`=)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る