第762話 前日譚
「楽しく笑いながら仕事するって、難しいですね」
運転する谷やん(脳筋社員1号)から唐突に話し掛けられた
「なんや急に?なんかあったの?」
「いや、何かあったというより、もっと真剣にやらなあかんな、というか」
「なんや気持ち悪い・・・何かに目覚めたんか?」
「何かっていうか、宮里(脳筋2号)を見てると、俺がいつまでも同じレベルで笑われているのは流石にまずいな、って」
「ほぉ!宮ちゃん効果があったの?笑」
「まあ・・・。例えばあいつ、バカ舌で何でも喰うし底無しじゃないですか。それって今まで、俺でしたよね?」
「あー確かに。味覚バカの大喰いやもんなお前は」
「まあ・・・あとあいつ、めっちゃデリヘル好きやないですか。それも昔は俺のキャラでしたよね?」
「ふふ、自覚あるんだね笑」
「もう飽きたんスよそういうの。ちゃんと付き合って、ちゃんとしたいっていうか」
「あっれまぁ~お前の口からそんなことを聞かされるとは。幾つだっけ?31だっけ?」
「もう33っス」
「ふーん。誰か気になる子がいたりするの?」
「あの・・・美栄橋駅から歩いて10分くらいの◯◯◯屋って知ってます?」
「あー名前聞いたことある。美味いらしいな。平屋の店やろ?」
「あっ、そうっすその店」
「・・・の、女の子?」
「まあ・・・」
「えっ、話したことあるの?」
「まあ、いろいろ」
「幾つ?彼氏はおらんの?」
「25くらいっすかね・・・彼氏は・・・わからんっス」
「全然、話できてへんやん笑」
「はあ・・・今度一緒に行きませんか?」
「あっそれが主旨かいな?ええよ、行ってみようや」
というわけでその週の土曜
人気店なので20時からの予約となったが、2人で訪問することになった
4人テーブルに通されると、「あ~谷さんいらっしゃ~い!」女性がやってきた
あっこの子か?
元AKBの秋元才加に似た美人さんだが、25ではないな・・・
勝手なイメージだが、沖縄あるあるでお子さんも居てそうだ
「今日、ウチのボス連れてきてん」
「あ、いつも谷がお世話になってるようで・・・飲み過ぎて騒いだり、御迷惑掛けてませんか?」
「え~っ御上司の方なんですか!こちらこそいつもお世話になってて・・・迷惑だなんて、とんでもない」
ほう、感じの良い子だな。
ちょっといきなり突っ込んでみよう。
「あの~今日さ、コイツがすっごく気になる人がいるって言うから、一緒に来たんですよ」
「わった!Tさん!ちょっと!」
「えっ、誰ですかぁ~?」
貴女ですよ、と手を向ける
「えっ!私ですか?!私なんて、あのぉ・・・え~っと、先にドリンク通しておきましょうねー」
「オリオンのジョッキ2つ」
一旦彼女は厨房に消える
「ちょっと!いきなり過ぎますって!」谷やんが焦っている
「こんなもん酔ってから言うもんとちゃうって。シラフの時に言うとかな冗談や思われるやろ」
「いやぁ~・・・そうっスかぁ?」
彼女がジョッキとお通しを持ってやってくる
それぞれの前に置いてくれたあと、彼女が
「すみません、さっきの続きなんですけど、谷さんってお幾つなんですか?」谷やんに聞いてきた
「えっ、33っス」
「私37ですよ?あと、娘いますよ小6の。」
「あっ旦那さんは・・・」
「私と娘2人です」
「俺、全然大丈夫っス!!」
いきなり谷やんが食い気味になってきたので
「ゴメンねいきなり、コイツこれ、マジなんだけど・・・ちょっと、お仕事の邪魔しちゃいけないし、とりあえず注文させますね」
とは詫びたが彼女はそれほど迷惑そうでもなく
それからも料理を運んできてくれたり、注文を取りに来てくれたりした
その間、テーブルではひたすら説教だ
「お前な、まずもって人の親になるということを軽く考えすぎ。彼女も冗談としか思ってないだろうけど、『俺全然大丈夫っス』なんて思いやり無さすぎ」
「はい・・・」
「まあ、わからんけどな」
あまり谷やんを落ち込ませても・・・と思うので話題を変え、さあそろそろ出ようか、となった
谷やんが手を上げ、それに彼女が反応し、谷やんはチェックの合図を送る
伝票を持って彼女がやってくる
「あの、僕、冗談では言ってないので。また来て良いですか」
「あっ全然大丈夫ですよ、来てください」
彼女はお金を受取り、奥に消える
「お前・・・珍しく積極的だね」
「俺そんな軽く考えて無いっすから」
まあね。
自由にやれば良いけどね。
芯はちゃんとしてる奴だしな。
彼女がお釣りと領収書を持ってきた
そして彼女は自然な流れでスマホを出し、「LINE、交換します?」と谷やんに言う
「えっ!マジっすか?!」
「良かったじゃ~ん笑(名札を見て)あの、Hさん、コイツの身元は私が保証しますから」
俺は俺で彼女に名刺を渡しておく
・・・それからまだ2週間も経たない木曜朝、谷やんが俺の机にやってきた
「お早う御座います」
「おっ、お早う!・・・ん、なに?」
「いやあの、Hさんの事なんですけど」
「ああ!忘れてたわ笑、連絡した?」
「いやあの、付き合う事になったんスけど」
「・・・は?ウソでしょ?」
「いやホンマです」
「えー!!いやいやいや・・・う~ん・・・いや~、お前そんな簡単に・・・娘さんも・・・」
「まあそこは徐々に、なんスけど、ちょっと大きな問題がありまして」
「なにさ・・・」
「あの~俺、長男じゃないすか」
「おう、そやなぁ」(地元・鳥取に社会人の妹と大学4回生の弟がいる)
「実はHさん、本家の娘なんですよ」
「んん?・・・ていうかもう、そんな話になってるの?!笑笑」
これは沖縄あるあるなのだが、地域によって「本家」と「分家」があり
仮に本家に娘しかいない場合、分家から婿を取るのだ
ただこれも現代では、血の繋がりが濃すぎると遺伝子の問題もあるから
その実態がどうなっているのか、俺にはわからない。
「婿養子になるなんてこと、母親になんて言ったらいいのか・・・」
「それは確かに大きな問題・・・てかもうそんな話なん?!笑笑」
「笑い事やないっすよ!俺ちょっと今週末にでも実家に戻ろうか思うんスけど、確かTさんも本土回りっスよね週末?だったら・・・」
谷やんは訴えるような目で俺を見つめ・・・あっ?!
行かん!行かんぞ!
お前の実家に一緒に説明なんて!!(2020年11月)
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