第751話 それはどんなの?

JR神戸線の、扉横に立っていた


帰宅ラッシュ後の19時過ぎだ


とある駅で止まり、俺のもたれかかる扉側が開く


ひとしきり乗客が乗り降りした後、次の駅で降りる予定なのだろうか


マスクの上からイヤホンを付けた20代の女の子が、まだ開いている扉前にスッと立つ


そのタイミングでホームに知り合いを見つけたらしく、マスクを外して声を掛けようとした瞬間


マスクの上から付けていた、L-Rがコードで繋がっているイヤホンが「ピン!」とホームに飛んだ


あっ?!という顔の女の子


気配に振り向いたホーム側の女の子


閉まりかけの扉越しに


中の子「持ってきて〜!!」


外の子「無理〜!!」


扉が閉まる


持ってきて〜というのは「明日、職場に」なのか「家に」なのか分からないが


このあと直ぐ、という意味ではなかったろうに「無理〜!!」なんて即答されたものだから


再び発進した車内で、彼女は顔を真っ赤にしながら俯いてスマホをいじりはじめた


他の乗客の目の前で友達からあんな全否定されたのだから、面目丸潰れだ


・・・と、彼女がおもむろにスマホを耳に当てた


「はーい。うんうん。いいよー全然。うんうん。あした?うん。ドトール?だいじょぶだよー、うん。あっわたしアイス豆乳ラテ〜。M〜。あとミラノのたまごタルタル〜。うん、そうー。ありがとねー。はーいじゃーねー」


1秒でわかるウソ電話


彼女の周囲の乗客達も、俺と同じく彼女の取り繕いに気付いたようだ


笑いを噛み殺しているお姉さんとか。


ただ、俺を含めた男性陣は総じて同じ行動に出たようだ


彼女のウソ電話のあと、さりげなく自分のスマホを取り出し、ググり始める


"ドトール、ミラノのたまごタルタル・・・"

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