第744話 共用トイレにて

何度か登場した、ウチの事務所が入るビルの、3F共用トイレ


同じフロアに入る税理士事務所が、毎朝9時に社員全員で雑巾掛けをするらしく


皆、同じサイズの、白地に青のストライプの入ったハンカチらしきものを濡らしに、トイレに集まってくる


なのでその時間にトイレに行くと、ドアも開けっぱなしでガヤガヤと


税理士事務所の男性社員が10人ほど、洗面台に群がっているのだ


先日、その時間の儀式のことを忘れてトイレに向かうと


ドアは閉まっていたが、中からワイワイガヤガヤと男連中の談笑が聞こえてきた


あ〜、そうか9時か。


全く騒がしい・・・

用を足しに入っている訳でもないのに!


腹が立ったので、肩を怒らせしかめっ面で、バン!とトイレのドアを押す


中では6〜7人の男どもが、洗面台でハンカチを濡らしながら(濡らし終えた奴らも残って)談笑していた


わっはっはと騒ぎの中


勢いよく開いたドアが、中の1人の背中に当たる(もちろん意図した訳ではない)


「いたっ!」


その声と共に、入ってきた怒れる俺に全員の視線が集まる


談笑が止み、緊張が走る


お揃いのストライプ柄ハンカチを握ったままの男どもが左右に散る


ズカズカッと小便器に向かう俺の前に、モーゼの海割りの如く道ができる


そして奴らは無言のまま、そそくさとトイレを出ていった


・・・全く。用が済めばサッサと出ていけっちゅーねん。


静かになったトイレで1人、用を足していると


「・・・たはらさん?」


ん?

んん??


「なに?・・・お〜ぃ・・・おぅ〜ぃ・・・」


背後から微かに声が聞こえる


振り向くと、今まで気付かなかったが個室が一つ閉まっている


俺は用を足し終えたが、直ぐに洗面台には向かわず、数秒待ってみる


「たはらさぁ〜ん・・・」


あれ?

なんか聞いたことがあるような・・・

デジャヴか?・・・あっ?!https://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927861500818514


「お〜ぃ・・・」


個室から更に、小声で呼び掛けが聞こえた


俺はそーっと洗面台の前まで移動し、手を洗わず待ってみる


かちゃ


座ったまま鍵を外し、体を伸ばしたのだろう


そ〜っと開いた個室の低い位置から顔が半分覗き


すぐに俺と目が合い「あっ?!」と戸が閉まった


そこでようやく俺は、勢いよく手を洗う


個室は静まり返っている


バン!


勢いよく扉を開け、俺はトイレを出た


"よこやま"はアイツだったか。

次は爆竹でも投げ入れてやろう。


事務所に戻り「あいつらビビらせたった」と一部始終を事務のM嬢に話したら


完全に小学生の思考、とダメ出しされた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る