第675話 寸劇

那覇空港のA&W(エンダー)


窓際席に、ピンクの派手なかりゆしのオッサンと、大人しめの灰色かりゆしのオッサンが座っている


双方とも55〜6才辺りだろうか


俺は、向かい合う2人を並列に見るような位置でセンター席にいる


ピンクの声がデカい

俺が入った時からずっと何やら演説している


灰色は「うん」「そうね」

にこやかに合いの手を入れるくらいだ


というかピンクがいちいち灰色を遮る


「違うの、違うの」

「僕はね、僕はね」

「僕の仕事はお金を集めることじゃなくてね!」

「票が割れてもね!」

「いま数多く花火上げても意味ない!」

「沖縄の文化をね、やんばると未来に絞ってね!」


県議?市議?

選挙に絡むことだろうか。


ピンクの主張はエスカレートする


朝の空港(9時)で客が少ないとはいえ、流石にうるさすぎる


「あなた違う違う、もう悠長すぎて呆れちゃうな!」ピンクが言い放った瞬間


全ては1秒で終わった


「スパァン!」


顔を突き出しているピンクの顔面に、笑ったままの灰色が正拳突きを入れた


気付いたのは俺だけだと思う


顔を覆い、テーブルに突っ伏すピンク


灰色は静かに席を立ち、店を出て行く


うっわ!

こどもみたい・・・


どうなるのだろうと突っ伏したピンクを見ていたら


覆っていた手を離し、鼻血が出ていないことを確認すると


頬杖ついて窓の外の飛行機を見ながら、カーリーフライ(オニオンリング)の残りを食べ始めた


まるで初めから一人で居たかのように


しかし相当顔が痛いのだろう、足元だけは高速で貧乏ゆすりしていた

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