第652話 相槌を打つ

以前、地元兵庫で刀鍛冶を見学した際、初めて「相槌を打つ」の語源を知った


炉から抜いた真っ赤な鉄に、師匠が槌 (つち。かなづち)を振る


それに合わせ、左右の弟子が槌を振る


相手に調子を合わせること。


そこからきた言葉が「相槌を打つ」であるらしいが、良い意味にも悪い意味にも使われる


ウチに出入りする取引先の営業マン、Kくん


彼はあまり優秀とは言えない


何というのか、How to 本を読んでそのまま実行してみました!みたいな


作り笑いの塊りみたいな34歳のお兄ちゃんだ


ウチの主催する飲み会にはほぼ毎回、参加してくれるのだが


その際、必ず俺の隣・または対面に座る


そして逐一、俺の話に対して


「仰る通りです!」

「目からウロコです!」

「勉強になります!」


などと相槌を打ってくれる


別に俺は、そうしてくれることで気分が良いわけでもない


むしろ心では、少なからずKくんのノリに引いているのだが、彼の営業マンとしての立場もわかるので


「おまえウザいよ」とは勿論、言わない


だが毎回、そんなKくんの太鼓持ちっぷりが気に食わず


いつの間にか側に来てKくんに絡むのが、谷やんだ


谷「お前ハイハイ言うな!ホントは分かってないんやろ!」(お前もな)


K「何を仰いますか分かってますよ」


谷「いっつもいっつも!Tさんの横ばっかり座って!」(逆にお前は避けすぎだ俺を)


K「貴重なお話を伺ってるんじゃないですか」


谷「腹立つなぁ!冷静に言いやがって!!」


毎回こうなる


女の子に取り合いされるなら「まあまあ2人とも」とでも言うのだろうが


相手がKくんと谷やんでは、嬉しくとも何ともない


で、五月蝿いものだから席を立ち、違う席に移動してもまだ、2人は言い合っている


毎回、中締めするまで2人で“やいのやいの”やっている


そして飲み会の翌日


「また昨日もアイツら揉めてたけど。あのあと収まったの?」


若手取りまとめのU部長に訊ねる


「もちろんまた昨日も、いつものコースだったみたいです笑」


あー、いつものコースな。


2人は飲んで揉めると必ず、肩組んで風俗に行く


それが仲直りらしい


まあ、この2人に挟まれても名刀は生まれないということだ。

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