第567話 巻き込むなよ?

駅の構内に和菓子屋の出店が出ていたのでフラッと立ち寄る


ほう・・・

ショーケースには美味しそうないちご大福などが並んでいる


ところで先程から四つん這いになって


このリュックを背負ったサラリーマンは、隣で何をしとるのだ?


「どうですか?ありましたか?」


店員の女性が表に出てきて、四つん這いの男性に声を掛ける


「あっ、いや、はい・・・」


小銭でも落としたのか?


暫く床を覗き込んだりして探していた男性は、諦めたのか立ち上がる


言っちゃあ悪いが


小太りで髪の毛がベチャッとしていて、黒縁メガネを掛けて鈍臭そうな30代のサラリーマンだ


「それではこちらが商品になります。こちら、お釣りです」


「あっ・・・」


男性は背中のリュックを下ろして前に抱えると、上部の紐をほどき、リュックの中をゴソゴソしだす


店員は男性の行動を待っているので、俺は注文ができない


ごそごそ~ごそごそ~何を探しとるのだ?


全く、早く商品とお釣り受け取れよ・・・


散々探した後、男性がリュックから出してきたのは財布


・・・って出しとけ!手に持っとけ!


財布を出した男性は商品の袋を左手で掴んだが


あっそれだと財布が開けられない、とでも思ったのか、商品の袋を棚に戻す


ビリビリ~ッとマジックテープの財布を開き、トレーに乗ったお釣りの小銭を掴ん・・・


チャリチャリチャリ~~ン


落としたよ小銭・・・また落としたよ。


マジックテープの財布を棚に置いてリュックを背負うと、再び四つん這いになって床を探しだした


女性店員の呆れたような目と、俺の目が合う


「大変お待たせ致しました、何になさいますか?」


「いちご大福を10個と、その三色団子も10本ください」


「かしこまりました、少々お待ちください」


レジを待つ俺の真横で、四つん這いで小銭を探す男性


俺の足元付近を覗いているので、邪魔かと思い、少しショーケースから離れてやったが


今、遠目から見ると


まるで俺が和菓子屋の前で、リュック背負ったサラリーマンを土下座させているように見えるのだろうな・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る