第545話 伝票

ミナミ(大阪)での客先訪問のあと


俺としては珍しく、1人でロースター焼肉を食べることにした


一列のカウンターで横並びの席に座る


時間は17時過ぎ。

まだ仕事帰りの皆さんは殆ど居ない


2杯目の生を飲み終えたころ、ようやくサラリーマンがちらほら入店してきた


そして俺の両隣には、それぞれお1人様のOLさんかな?が座る


最近はこうやって、女性も普通に1人でやってくるようになった


左の女性は生、右の女性はハイボールを飲みながら、肉を焼きつつスマホチェックだ


忙しいねぇ・・・


いやいや、隣に女性が座ったからと意識しているのは俺だけだ、残りの食事に集中しよう


そのうち、左隣の女性が足元に置いた、鞄の上に畳んでいたスカーフが、俺の足元に落ちてきた


「あっすみません・・・」


その女性も気付き、椅子を引いて屈んでスカーフを拾おうとして


手元の白ご飯茶碗に置いた割り箸に左手が当たり、びょょょ〜んと弧を描いて飛んだ


スカーフを拾い、落ちた割り箸も拾い、席についた女性は、俺に一礼して新しい割り箸を取ったが


あっ・・・俺は気付いてしまった


おそらく屈むと同時に彼女の頭上を割り箸が舞った際、ご飯つぶが頭にキャリーオンしたのだ


ちょうど頭頂部右手の位置に3粒ほど、米が乗っている


"あっこれは言うべきか言わざるべきか"


一瞬考えたが直ぐに話しかける


「あの、ごめんなさい、ちょっと頭に付いてるみたいだから、取って良いですか?」


「えっ?」


彼女が、俺が指差したあたりを自分の右手で触れようとしたので


「あっ、ちょっ、ちょっと動かないでください」と彼女を制してササッと米粒を取る


我ながら機敏な動きだ


自分の頭に白ご飯が乗っていたこと、それをオッサンに取って貰ったことで恥ずかしそうにしている彼女に、"気になさらず"と手を振り


急いで残り飯を平らげると、伝票を掴んで席を立った


でないと彼女もひとり飯に集中できないだろう


・・・と、入口レジに向かう俺の背が叩かれる


ん?と振り向くと、右隣にいたハイボールの女性だ


「はい、何でしょう?」


「それ私の伝票・・・」

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