第418話 クマ

大阪は心斎橋の商店街を外れ、通りを歩いていると


10メートルほど前を若いカップルが歩いている


通りの先の右手に、何やら大きな置物・・・俺は、遠目からは大きなクマのディスプレーだと思っていたのだが


カップルが真横を通り過ぎようとした時、ガバッ!とそのクマが男性に抱きついた


「うわっ!」

「きゃあっ!」


2人は驚き、男性は必死にクマの着ぐるみの抱擁から逃れようとしている


そしてようやくクマを振り解くと


「おっるるあぁ!!」


鬼の形相で本気のローキックをクマに浴びせる


クマがよろよろとバランスを崩す


「いこ!もう行こ!」


女性に腕を引っ張られた男性は、2発目を蹴り掛けたが


「何やお前は!ボケ!!」


捨て台詞を吐いて去って行った


クマもクマだが、君も少々、大人気なくないかお兄ちゃん?


・・・という一部始終を見ながら俺も歩いているので、もうあと2メートルほどでクマの真横にくる


あれを見たからといってクマを避けるのも格好悪いな


まあ、黒のスーツに紫のシャツを着る俺に、まさか抱きつくとも思えんが


つい今しがたマジギレされたばかりだし、中の兄ちゃんだかオッサンだか知らんがアホなことはせんだろう・・・


と、思った俺が甘かった


ガバッ!

クマがきたΣ(,,゚Д゚)


うあっ?!アホかこいつ!!


うわ臭っせ!!こいつ腐っとるのか?!


剣道の面!!牛乳拭いたぞうきん!!


離さんかアホォ!!臭いんじゃボケェ!!


早よ離さんかぁ!!


ぐぅぅぅ臭っさいんじゃあ・・・


は・な・せ・ア・ホッ!!!!


思い切りクマを突き飛ばす


スーツは?!・・・あああっ!!

茶色の毛だらけやんけ?!!


さっきのあいつがマジギレしたの分かったわ!!


尻もちを付いて倒れたクマにズカズカと近付く


「おいこら!これ見てみい!毛だらけやんけ!誰かれ見境なくジャレてええのんとちゃうぞ!!責任者呼んでこいコラ!!今すぐや!!」


倒れたままのクマが慌てて体勢を立て直し、ノロノロと重そうに立ち上がりながら、クマの頭部を持ち上げる


「えっ・・・?」


出てきたのは汗だくの若い女性


「も、も、申し訳ありませんでした・・・」泣きそうな顔で俺に頭を下げる


はっと我に帰り周囲を見ると


遠目に人だかりができかけている


これはまずい・・・


「あっ、いや、あなたが頑張っているのは分かるけども、ほら、そのぅ・・・毛がこんな(と俺のスーツを指差し)付いてまうし、通行人の迷惑になることもあるからさ・・・まあ、気をつけなさい。もういいから」


「申し訳ありませんでした・・・」


「いや、もういいから」


俺は黒のスーツ右半身に大量のクマの毛をつけたまま、足早にその場を去る


歩きながら毛をはらい、何気に指先を嗅いでみる


臭っっっさ!!Σ(,,゚Д゚)

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