第394話 眼鏡の謎

ウチの小さな営業マン・イシくんには小4の娘さんがいて


それはもう可愛い女の子だ

どちらかといえば目鼻立ちは奥さん似


その娘さんが小1の時


授業参観に赴いたイシくん、教室の後ろに貼り出されていた「お父さん・お母さんの似顔絵」を見て


あれっ、またぁ?と首を傾げた


所詮は6歳の絵

画力などは望むべくもないが


「わたしのおとうさん」と名付けられたその絵


しっかりと眼鏡を掛けている


ちなみにイシくんは生まれてこの方、眼鏡など掛けたことがない


なんで眼鏡を描くんだろう・・・


実はこれが初めてではない

幼稚園の年長組の時も、“おとうさん”の似顔絵を描いてくれたのだが


その絵の自分も、眼鏡を掛けていた


「おとうさん眼鏡なんか掛けてないよ?」


「かけてる」


「えーっ掛けてないよ?」


「かけてるの」


その時はそれでおわったのだが、今回もまた眼鏡


その夜、1年前と同じことを聞いてみた


「似顔絵みたよ、おとうさん眼鏡掛けてるの?」


「うん」


「でもほら掛けてないよ?」


「かけてるの」



「・・・とまあ、娘が2年連続で俺の似顔絵に眼鏡を描いたんですよ」


当時イシくんが苦笑いで俺に話してくれた


「それって出入りの佐川の兄ちゃんとかじゃないの?」


「えっ、でもお父さんですよ?」


「だから〜、ホントのお父さんは佐川の兄ちゃんとか」


「やめてください笑」



・・・それから3年経ち、10歳になった娘さん


学校が、コロナ休校中の課題として出していた「家族」というお題のポスターを


描き上げたは良いが、休校が延長となったため、自宅に保管していた


休みの日にたまたま、その話になり


イシくんは特に深い意味もなく「へぇ〜ちょっと見せて」娘さんにお願いしたところ


「うんいいよ」娘さんは直ぐに、丸めたポスターを取ってきた


紙の上部に灰皿を置き、絵を巻物のように手前に開いていく


家族3人の描かれた水彩画だ


「これ、お父さん?」


「そうだよ」


「眼鏡掛けてるよね、これ」


「あー」


「これさ、憶えてないかもだけど、幼稚園の時も小1の時も、絵の中のお父さんは眼鏡掛けてたんだよ」


「あ〜。眼鏡掛けてるほうが格好良いかなーって」


「あ、そういうこと?それだけ?眼鏡掛けた人は格好良いんだ?」


「うん。いつも来る宅急便の人とか」

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