第382話 西俣家

高2の時に、同じクラスに西俣(にしまた)という男がいて


・・・といっても男子校なので男しかいないのだが


こいつが、いつの頃からか俺の真似ばかりするようになった


最初は俺を茶化しているのかと思っていたが、どうやらそうでもなく、俺の口調や仕草を、自分自身に取り入れているようなのだ


「西俣にTの真似させたら最高に上手いな!」で周りは済んでいたが


俺は「なんか違うぞ・・・気持ち悪い奴・・・」と感じていた


そんなある日


「なあ、ウチの姉ちゃんに英語習わん?」西俣が誘ってきた


「なんで?」


「俺もお前も英語(の成績)良くないやん。姉ちゃん外語大やねん。一緒に教えてもらわん?」


当時俺は、色々と事情があり一人暮らしをしていた


高校までは電車で5駅と近い


教えて貰うとなれば、高校の最寄駅の裏手にある西俣家に通うことになるが


週イチ程度なら時間はあるなぁ・・・


そんな訳で、確かに英語の成績に不安を感じていた俺は、月に2,000円の授業料で西俣の話に乗ることにした


彼の家は戸建て一軒家


まあ、普通の家だ。玄関を入ってすぐにリビングダイニングがある


そこを抜けた先の狭い応接間(?)で、お姉さんに教えて貰うことになるのだが


西俣は、一緒に勉強しないかと俺を誘った時に


「俺の姉ちゃん可愛いで~。大学でも人気らしいで~」と


まるで、姉で俺を釣るかのように言ってきた


実際、俺が教えて貰おうと決めた要因の8割が、お姉さんに会ってみたいからだった


初日。


夕方5時から教えて貰うことになっていたので、15分ほど前に到着


お姉さんの、大学からの帰りがギリになりそうだと言うことで、西俣と2人して待つ


「緊張してる?」と西俣がニヤッと笑う


「なんで緊張なんかするねん」


「姉ちゃんに会うの緊張してるんやろ?」


「意味わからん」


西俣の母親が来て、Tくん勉強終わったら一緒にご飯食べていってねと誘ってくれる


いやいや、そんなと断ったが、もうその段取りしてるからと言われ、晩飯を頂くことにする


母親と入れ替わりでお姉さんが帰ってきた


「こんばんは、初めまして。」


おお・・・確かに美人だ


「宜しくお願いします」


立って挨拶する俺を、西俣はニヤニヤと見ている


というわけで、学校で使用している教科書を元に授業がスタートした


・・・1時間半後。


「今日はここまで、お疲れ様でした」


初日の授業が終わり、西俣に促されリビングダイニングに向かう


"ところでこれ・・・さっきも思ったけど何なんやろうか?"


リビングダイニングの片隅に、縦横1.5m四方、高さが天井に届くくらいの、長方形のビニールの囲いがあるのだ


囲いというか、テントが長方形になったような、1周り大きくなった電話ボックスのようなスペースがあるのだ


食器棚に連なって、壁にピタッと設置されているそのビニールボックスの用途が判らぬまま、勧められた椅子に座る


俺の隣には西俣、西俣の正面には、いつの間にか帰っていた父親が座る


「こんばんは、お邪魔してます」


「ああ、どうでしたか家庭教師は?」


「いろいろ、わかりやすく教えて戴きました」


父親は、真面目な我が息子が連れてきた友達・・・ブリーチした金髪にセミロングなカーリー崩れの俺がとても物珍しいようで、チラチラと俺を観察してくる(今は薄らハゲですが、流石に高校生なので髪はまだフサってました)


「今日は生姜焼きなんだけど、たくさん食べてね」母親に勧められ、父親・西俣・俺は食事を取り始める


"あれ?お姉さんは食べないのかな?"


そんなことを思いながら食べていると、奥から、部屋着に着替えてバスタオル?を持ったお姉さんがやってきた


「わたし先に入るわー」


そう言ってお姉さんは、例の用途不明なビニールボックスの上部のツマミを掴むと、ジジジ~っと下まで下げた


あっ、あんなところにファスナーあったんだ・・・


ペランと正面ビニールが斜めに垂れて開き、そこからお姉さんは中に入っていく


そして中からまた、ジジジ~っとファスナーが上がり、ビニールボックスは閉じられた


"何が始まるのだ?"


俺が座っているテーブルから、たかだか右横3mの至近距離だ


そのうち・・・


ザーザーザー

バシャッ

ザーザーザーザー

バシャッ

カラン

バシャッバシャッ

ザーザーザー


まてまて、これ・・・風呂?!

こんな至近距離で??


いつもの光景、といった感じで気にもせず食べている父親と西俣。台所に立つ母親。


「ちょっと・・・あれって・・・」


あまりにも気になり御飯どころではなくなった俺は、西俣に小声で聞いてみた


「ん?風呂」


やはりか

てことはこの家、風呂ないの?

いや、壊れてるんやろか?

それにしても客のいる、こんな至近距離で風呂って・・・


もう右手で聞こえるバシャバシャザーザーの異常な空間が気になって、御飯など上の空になってしまった


30分ほどして頭にタオルを巻いたお姉さんが出てきて、自室へと去って行った


それから数回、お邪魔したが

その後も2回、風呂に遭遇した


ちなみに内1回は父親だったが。


その後間もなく停学を喰らってしまいhttps://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927861870883140

西俣、及び西俣家とも会うことはなくなった。

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