第278話 東急ハンズにて

東京からの帰りに神戸に寄った


新神戸駅から歩きで三ノ宮まで下り、東急ハンズ(現在は閉店)に寄る


エレベーターで一気に最上階6Fまで上がり、2冊目のスケジュール手帳を物色する


しかし、使っていたお気に入りの手帳のデザインが一新されてしまい、ちょっと使い勝手が違うかなぁ、と購入を見送った


まだ時間もあるので、ゆっくり各階を周りながら1Fまで降りることにする


三ノ宮のハンズは、各階フロアがA・B・Cとブロック分けされていて


AからBへはまっすぐ階段を数段上がる

BからCへは、横手の階段を中2階へと上がる


その中2階からUターンして階段を上がると、上のフロアとなる


言葉では、なかなか説明が難しいのだが、まあそんな構造だ


俺の居る手帳のブロックは6B

そこから下のフロアへと降りる階段がある


階段を降りたブロックは、中2階の5Cだ


またそこから180度Uターンして階段を下ると、5Bがある


さて


6Bから階段を降りる際、踊り場で70〜80歳くらいのお爺さんが携帯で電話していた


「いま何処?こっちは6Bに居るよ」

そんな会話が聞こえる


俺は中2階の5Cに降り立ったあと、クルッと向きを変え、次は5Bへの階段を降りかけた


すると5Bの踊り場に、こちら(階段)を向いて携帯で話す、これまた70〜80代のお婆さんが立っている


そして


「私ですか?私は4階かな?5階かしら?」

そんな会話が聞こえる


あっ、なるほど。


中2階の俺を挟んで上と下で話す2人は、お連れさんなのだと気付く


そうと分かると、2人の電話(俺には会話)がシンクロする


「近くにいたら来てくれん?」


「えっ上がったらいいの?どこ?何階?」


本人同士はフロアが違うので、お互いの声は全く聞こえないのだろうが


俺は立ち位置的に双方の姿が見え、双方の会話が丸聞こえなので、教えて差し上げれば良いのだ


早速こちらに向いて電話しているお婆さんに向かい、両手の人差し指を立てて、腕を上に突き上げながら


うえ!うえですよ!


声には出していないが、オーバーめのジェスチャーで口元を動かす


お婆さんは、こちらに向いてはいるが、まさか自分に向かって見知らぬ男が合図を送っているとは思わず


「何処から上がればいいの?前の階段からかしら?」首を傾げておられるので


更に大きな動きで腕を突き上げ、人差し指で上を示し"うえですよ!うえ!"とやってみた


お婆さんはようやく気付いたようだが、目線を逸らすように体を横に向け、手で携帯を覆い隠しながら何やら話している


すると上のお爺さんが


「えっ?オニ?オニって言われてる?お前が?

えっ?ツノ?ツノを伸ばしてる?誰がよ?」


ちょっと待って

めちゃくちゃ勘違いです(ー ー;)


すかさず俺は、お婆さんに向かい


ちがう!ちがう!

手を横に振りながらエア言葉で伝える


すると上のお爺さん

「なに?くさい?くさいって言われてるの?!わかったすぐ降りる!!」


めちゃくちゃやん・・・


お爺さん・お婆さんとの距離は共に5mほどしか離れていない


ここから立ち去るのは目立ち過ぎる


ていうか何も悪くないのに、この場を去るのもシャクだ


・・・よし。


お爺さんは携帯を耳に当てたまま、急ぎ足で階段を降りてくる


腹を括り、お爺さんが中2階の踊り場に降り立ち・次いでこちらを向いたタイミングで


「ちょっと、ちょっと待ってください!」


両手を伸ばしてお爺さんを制する


同タイミングでお爺さんの携帯から


「あぶないお父さんその人よ!あぶない!」

お婆さんの叫び声


ギョッとして俺を凝視するお爺さん


「違うんです!聞いてください私、さっきからここに居まして、上でお電話されてた貴方様と、あちら様が(と言ってお婆さんに右手を向け)お話しされてると気付いたのですが、あちら様が場所がお判りにならなかった様でしたので『上におられますよ』と、こう(・・・と腕を上に向け)指を指したつもりだったのですが意味を取り違えられたみたいで、違いますよとこう(・・・と手のひらを横に)振ったところ、また取り違えられたんです!」


お爺さんを驚かせないよう気を付けながら、そこまでを一気に説明した


と、一拍置いて意味を理解したお爺さんは大爆笑


「なんやそれ〜笑笑笑」腹を抱えて階段にへたり込む


すると左手に持っているお爺さんの携帯から


「どうしたのお父さん?!大丈夫?!お店の人、呼ぼうか?!」

お婆さんの叫び声


腹を抱えながらも慌てて身を起こしたお爺さんが、「違う違う!」と階下のお婆さんに手を振る


・・・その後


ツボに入った笑いをなんとか収めたお爺さんは、お婆さんに、ここまでの経緯を説明


「もう本当に御免なさい!御好意で教えて戴いたのに、私の早とちりで!」


お婆さんが何度も俺に頭をお下げになる間、お爺さんはまた思い出して爆笑していた

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