第218話 朝の事務所

朝、事務所で掃除機を掛けていた谷やん(脳筋社員1号・34才)が


掃除機を止め、しゃがんで何やらカーペットを摘んでいる


「ちっ!汚いなぁ・・・」


「どうした?」


「これ。爪っすわ」


まだ7時過ぎなので俺と2人きりだ。


「掃除機で吸うたらええやないか」


「引っかかって取れんから摘んだら爪やったんすよ」


「汚い言うてるけど、お前が昼休みにせっせとヤスリがけした爪の粉を 『フーッ』 て落としてるのは、ええの?」


「えっ・・・そんなことしてないです」


「クリップ無いとき、お前の机の周りに行ったら必ず落ちてるから事欠かんねんけど、たまに引っかかってて取れん」


「そんなん言うならTさんの机の下にも、じゃがりことか落ちてますやん?お豆さんとか」


「それは関係ないやろ。お前いま掃除してるんでしょ?だったら 『爪が~』 言うとらんと、綺麗にしたったらええんちゃうの?」


「いやでも1人ひとりの心掛けが大切です」


「そらそうやけど。あれかぁ?自分のウンコの臭いは大丈夫でも他人のは許せない派?」


「俺は許しますよ」


「でも臭っせ~思うやろ?」


「思っても言わないすよ」


「言う言わんやなくて。俺が言いたいのは、自分も汚すでしょ?自分は良くて他人はダメ、ってことないでしょ?」


「トイレは汚さないっすよ」


「トイレの話なんかしてへん。ホンマ、お前と話すと疲れるわ」


「掃除してるの俺やのに、なんでTさんが疲れるんすか」


「屁理屈ばっかり言うからやん」


「屁理屈なんか言ってないじゃないすか!」


「ほら。あー言えばこー言うやん。素直やないねん可愛げないねん」


「いやいやいや。言葉返さんかったら返さんかったで 『お前はいっつも話聞かん!』 言うて怒るやないですか」


「怒るよ?」


「ほら怒るでしょ?合ってるやないですか」


「合ってる」


「じゃあ良いやないですか」


「良い」



・・・数分後。


自席でPC画面を眺めながらソフトサラダ(塩せんべい)を食べている谷やん


ジッと観察してる訳ではないが


1枚食べるたび、指についた塩をティッシュで拭いている


6枚ほど食べたところで手を止め、引き出しから目薬を取り出す


両目に注したあと、上を向いたまま左手で机を探っていた谷やんが


指を拭いたティッシュに触れ、それで両目を押さえる


「・・・痛い」


なんか言うてるアホの子が。


「痛い痛い痛い!えっなんで?!」


当たり前やろ。

それで塩ついた指、ずっと拭いてたの忘れた?


「・・・あっ!さっきの爪?!」


塩やというのに。

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