第130話 積年の恨み

その声が気に入らない

その顔が気に入らない

その立ち振舞いが気に入らない


・・・小2の2学期に、生駒(いこま)という少年が転校してきた


冷たい目をした、まんまるな奴


そいつが、学年朝礼や全校朝礼で並ぶと、背の順で俺の後ろにくることになった


後ろに立つようになったその日から、俺の背中や腕を、やたらと摘んで捻ってくる


「やめてよ!」

振り向いて生駒に言うのだが、彼は無表情で無言


前を向くと、またすぐ背後からつねってくる


「やめてって!」

振り向いて抗議するが、無表情で何も言わない生駒


かといってクラスでは、何もしてこない


どうやら俺が近い距離にいると、ちょっかいを出してくるようだ


転校してきたばかりというのもあるが、小2で寡黙って、かなり不気味だ


友達ができるでもなく、1か月が過ぎようとしていた、月曜の全校朝礼


また俺にとって憂鬱な時間が来た


ちなみにそれまでの俺は「誰とでも遊び、悪さもしない、明るい少年」だった(・・・多分)


友達から嫌事をされたことなど無く、ましてや喧嘩もしたことがなかったので


生駒のような奴には、どう対処したら良いのか判らなかった


しかしこの日は、もう我慢ならなかったんだと思う


朝礼が始まると同時に、背後から生駒が左腕をつねってきたので


振り向きざま俺は、生駒を思いっきり引っ叩いた


「いたい!」


生駒は頬っぺたを押さえてうずくまると、びっくりするような大声で泣き出した


全校朝礼だったから、ちょっとした騒ぎになってしまった


その頃、俺は既に親父から日本拳法を習っていたので


親父が校長のところまで詫びに来て、その足で俺を連れて生駒家まで詫びに行った


ちなみに親父に怒られはしたが、そうなるまでの経緯を担任から聞いていたようで


「とにかく、手だけは絶対に出しちゃいかん」と"指導"されるにとどまった


「生駒くんのお母さんが言うには、彼は前の学校でも友達にちょっかいを出す問題児だったらしい。それにしても、お前の存在が、そんなに目障りだったのかね?」


それからの生駒は一気に存在感が薄れてしまい、クラスの誰からも相手にされず


3年生になると、また他校へと引っ越していった


それはそれで生駒に対しては、子供ながらに同情した記憶がある



・・・と、長いイントロになってしまった。


先日、漁協近くの一膳飯屋で向かい合わせになった顔見知りの船頭・Uさん


俺の3つ上で、筋骨隆々、日に焼けて、往年のマサ斎藤のような風貌。


飯を喰いながら何処の漁場が良くて悪くて・・・みたいな話をしていると、突然


「あ!」


俺の背後の少し上を見て、声をあげる


「ああ!やっぱり!!」


振り返るとテレビが置いてあって、ローカルTVの情報番組をやっている


「あにひゃ〜・・・うしぇーてるやっさー!!」

(あいつ・・・バカにしてるのか!!)


「どうしたんです突然?!」


「あの、いまテレビに出てる奴さ」


そう言われて再度振り向いてみると、コメンテーターが喋っているのだが、テロップで名前と肩書がでている


「民俗学者」となっているが、まあ何処にでも居そうな、眼鏡を掛けたヒョロい白髪親父だ


「あの人?・・・知ってる人?」


「あいつ、間違いないね。小学生の時の同級なんだよ。しに(めちゃくちゃ)虐められて・・・な〜にが民俗学者だ!!」


「えっ?Uさんが?あんなヒョロい奴に?」


「あんなにヒョロいから!余計わじわじーする(超腹立つ)!!・・・Tくん、わー今からあひにゃー、たっくるす!!(俺今からあいつ、ぶっ殺す!!)」


ガッと立ち上がり、本気でテレビ局に乗り込もうとするUさんを止めるのに往生した


積年の恨みは、募る。


思うに


見ず知らずの他人に無性に腹が立つ理由は、前世で敵だったからじゃないのかなぁ?

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