第23話 神様の悪ふざけ
バラけてしまった電気羊を一か所にまとめ、真白が解体する。金色の角を落とし、チョキチョキとハサミで羊毛を刈り取る。ちなみにこのハサミは俺が鍛冶スキルで作った物だ。
その間俺は暇なので、夕飯の準備を始める。簡易コンロと調理台を広げて、用意しておいた食材を切って下拵えを進めておく。それでも時間が余ったので、適当に近場を散策して、薬草学のスキルを頼りに、薬草や秘薬、キノコなんかを採取した。
「おぉ! これ、めっちゃ使いやすい!」
空を切るように真白はさくさく毛を刈っていくが、俺の鍛冶スキルはまだまだ低い。作ったハサミの品質も市販品並で、解体が早いのは真白の解剖学のお陰だろう。
「そんな事ないもん! 全然違うもん!」
あくまで真白はそう言い張るが……。まぁ、気持ちの問題だろう。
俺としても、そんな風に言って貰えるのは悪い気はしない。
毛を刈り終わったら喉を裂き、その辺の木にぶら下げて血抜きを行う。これをするのとしないのとで、肉の買い取り額が全然違ってくる。血の臭いに魔物が寄ってくるかもしれないので、聖域の魔法も忘れない。そこらじゅうの木に毛を刈られた羊の死体が逆さ吊りになっている光景は冷静に考えるとかなり不気味だ。
「なんか黒魔術の儀式みたいだね?」
うきうきしながら真白は言う。
ホラー映画みたいで楽しいね! と言いたいのだろう。
全然楽しくないが、楽しそうな真白を見ている分には楽しい。
血抜きが終わったら次は皮剥ぎだ。
真白が一匹目の皮を剥ぎ終えたら、俺も解体作業に加わる。
料理スキルは肉に関する解体には効果がある。真白的には解体は自分の仕事らしいが、クソとゲロの詰まった内蔵の処理をやらせるのは忍びない。真白の皮剥ぎと並走するように行えば、時短にもなる。共同作業だと言えば、真白も嫌な顔はしない。
まずは下っ腹を開いて肛門の終わりを縛っておく。これをしないと内蔵を取り出す時にウンチが飛び出して酷い目に遭う。そしたら今度は喉から胸を開き、食道を縛る。これをしないとゲロが以下略。
それが終わったら腹を開いて内蔵を掻きだす。傷つけると内容物がこぼれるので慎重に。こっちも使い道はあるのだろうが、インベントリーに余裕がないし、洗うのも大変なので、真白が採掘スキルで掘った穴にまとめて埋めておく。採掘はつるはしを使った採掘の他にも、シャベルを使った穴掘りにも効果がある。
納品用の肉の処理はそんな所でいいだろう。
一匹は自分達で食べるので、パーツにバラしておく。
料理ギルドで聞いた専門用語だと、枝肉とか言うらしい。
解体作業が終わったら真白は休憩、俺は料理だ。休憩と言っても、真白は俺が料理をしている姿が好きらしく、すぐ横に張り付いて涎を垂らしながらニコニコしている。最初はやりづらかったけどもう慣れた。真白に見張られてると思うとやる気も出る。
小まめな手洗いは大事だ。料理スキルで食中毒などの危険性は抑えられると言っても、内蔵を掻き出しり生肉を触った手で料理をするのは気持ちが悪い。クラス0の魔法は生活魔法的な立ち位置で、ちょっとした火を起こしたり、水を出したり出来る。
秘薬は使わないが、普通の魔法と同じくらい魔力を消費する。便利だが、かなり燃費の悪い術である。魔力呼吸のスキルが育ってきたので、ある程度は無駄な使い方をする余裕も出てきた。
それで水を出して手を洗う。もちろん真白もだ。
電気羊のタンの皮と裏の筋を取り、もも肉と一緒にざっくり切って、塩と砕いた
フライパンにバターを溶かし、先程切ったもも肉とタンを焼く。焼き色がついたら下拵えを済ませておいた
金玉ネギは皮が金色の玉ネギで、二個一セットで生えるんだと料理ギルドのおばちゃんがニヤニヤしながら教えてくれた。セクハラである。
人人参はしなしなだけど、味が凝縮されていて普通に美味い。秘薬として常備しているので、使いやすい食材である。人参嫌いの人には受け付けない味だろうけど。俺はまともな食べ物なら好き嫌いはないし、真白はまともじゃない食べ物も食べる。なので、食材について心配する必要はない。
量が多いので火が通ったら大鍋に移し、水と赤ワインを入れ、灰汁を取りつつ暫く煮込む。肉が柔らかくなってきたら伯爵芋と美味の素、料理ギルドで買った出来合いのデミグラスソースを投入。料理の楽しさに目覚めたとはいえ、毎日やるのは大変だ。続けるコツは、適度に手を抜く事だろう。
伯爵芋は、俺の目には普通の男爵芋にしか見えないし、実際同じものだと思う。これも料理ギルドのおばちゃんに聞いた話だけど、大昔、どこかの国で名もなき冒険者がこいつを広めて飢饉を救い、伯爵まで出世したのが由来だと言われているらしい。多分転生者だったのだろう。
あとはジャガイモが柔らかくなるまで煮込めば完成だ。
「鍋の番をしといてくれ」
「了解であります!」
真白に鍋を任せてもう一品作る。解体は大仕事だし、俺を抱えて走り回ったから、今日の真白は沢山食べるだろう。狩った電気羊の中に子羊が混じっていたので、背中の肉を肋骨ごとごっそり外す。余計な事はせず、骨ごとに切り分けて塩コショウ美味の元と香草を振り、ワイルド焼きまくる。
「ふゎああああああああ!?」
美味しそうな匂いにつられて、真白が奇声を発する。大食いの癖にスレンダーな腹がぐるぐると、大きな猫でも飼ってるみたいに鳴いていた。
「鍋に涎垂らすなよ」
「はい!」
まぁ、真白の涎ならそれも調味料か。なんて思いながら、持ってきた丸パンを軽くあぶって食べやすく切り揃える。
あとは食器によそって完成だ。
電気羊のモモとタンシチューに、ラムチョップとパン。
肉ばっかりだけど、真白はこういうのが一番喜ぶし、俺達はそういう年頃だ。この世界には小言を言う親もいない……。まぁ、親御さんから真白を預かってると言えなくもない。今日みたいな頑張った日は特別で、普段はちゃんと野菜も食べさせている。
「
もう、涎でまともに喋れないような状態で叫ぶと、真白がマトンシチューを頬張る。
そして、いつもみたいに地面すれすれまで仰け反って叫ぶのだ。
「う~~~ま~~~~い~~~~ぞ~~~~~~!」
はい、お粗末様でした。
この笑顔の為に転生したと言っても過言じゃない。
料理なんか、いくらだって作ってやるよ。
それこそ、死ぬまでだってな。
†
電気羊を狩り終わったらもう用はない。
あとはエイブンの街に帰るだけだ。
途中でもう一度野宿して、飽きもせずに電気羊料理を振る舞う。
真白は大食いで、一人で大人の電気羊を半分くらい食べてしまったんじゃないだろうか?
「いーじゃん! 沢山あるんだし! 食べたらその分軽くなるんだからさ!」
背中に俺が丸ごと入りそうな大きなリュックを背負って言うのである。
それが真白の秘策だった。インベントリーに入りきらないなら、普通に背負って帰ればいい。恐ろしい脳筋である。それを可能とする筋力とスタミナがあるのだからなお恐ろしい。魔法職の俺には逆立ちしたって出来ない芸当である。
こうして俺達は色々な初めてを経験し、評価レベルも7に上がった。殺風景だった新居には、駆け出し冒険者には不相応な立派なラグマットが敷かれ、俺は毎日真白の素足を拝めるようになった。
電気羊の素材だが、予定よりも多く獲れたので、一匹分の皮と羊毛をゴリゴンさんにお裾分けした。駆け出しが余計な気ぃ使ってんじゃねぇ! と、物凄く怒られてしまったが、いつものツンデレである。
その証拠に、ゴリゴンさんは後日、よちよちと歩いてンメェ~と鳴く、デフォルメされた可愛い電気羊のぬいぐるみを俺にくれた。間違って一つ多く作ってしまったが、捨てるのも勿体ないからという事らしい。
まぁ、嘘だろう。ありがたく頂戴して、真白にプレゼントした。俺の手製のぬいぐるみを贈る際のハードルが爆上がりしてしまったけど、真白の笑顔が見れるなら問題ない。ゴリゴンさんはいい人なので、嫉妬もない。まぁ、全くとは言わないけど。そのぬいぐるみは今、俺が大工スキルで作った不格好な棚の中に納まっている。
彼女と一緒に異世界転生!? 可愛い彼女と憧れの異世界でイチャラブスローライフ送っちゃっていいんですか! 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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