第2-5話 魔王様の恐怖政治に手を貸す

 

「あうあう……それでは本題ですが」

「どうすれば恐怖政治を敷けるのでしょう?」


 恥ずかしそうにもじもじする魔王様。

 まずは彼女の第一の相談である。


「そうだな……」


 彼女の実力はまだよく分からないが、魔王になれるくらいだから魔界随一なのだろう。

 恐らく彼女は見た目”だけ”で侮られている。


【認識改変】で姿を変える手は使えない……彼女の容姿は既に魔王軍内に知れ渡っているからだ。

 それならば……。


「フェル、君に仲の良い側近や世話係はいるか?」


「? はい、いますよ。

 ……ポンニャちゃん!」


 俺の言葉に、パンパンと手を叩くフェル。



 ずももん!



「はいはいフェル様、お呼びかにゃっ!」


 その途端、室内に紫色の煙が立ち込め……ぽんっ!という音とともに現れたのは、漆黒の翼を持つグランサキュバスだった。


「マジかよ……」


 グランサキュバス……魔族と呼ばれる最上位モンスターの中でも最高位に近い存在で、魔王の側近や近衛師団長を務めることが多いらしい。


 紫色のボンテージ服に身を包み、鋭い目つきをした女傑……恐ろしいほどの実力を秘めていることは俺でも見て取れるが……。


「はいポンニャちゃん、魔界マタタビだよ~よしよし」


「ごろにゃ~~ん♡」


 ピコピコと動くネコミミと尻尾、ちっちゃなフェルに甘える様子が色々と台無しだった。



 ***  ***


「おお! この男がフェル様が探してたお助け候補だにゃん?」


「そうだよポンニャちゃん。 ランさんには余の事情をすべて話したから……よろしくしてあげてね」


「はいだにゃ! ランっち、よろしくだにゃ!」


「あ、ああ……よろしく」


 強そうな見た目に反してとてもフランクなグランサキュバスのポンニャと握手を交わす。


「ということで、四天王第二柱であるポンニャちゃんは余の友達です」

「一緒に時間稼ぎの策を練っていければと」


「了解した」


 なるほど……四天王の中に味方がいるなら話は早い。

 俺はポンニャが自己紹介する間に考えていた恐怖政治プランを二人に披露する。



 ***  ***


「なるほど……すぺしゃるな粛正っ!

 これは盲点でした……ありがとうございますランさん」


「ちょっと待てだにゃ! これ、ポンニャ無事に生き延びれるのかにゃ!?」


「まあ待て焦るな」


 当然と言えば当然のリアクションを取るポンニャに、俺はもう一度説明する。

 俺のプランはこうだ。


 本日、四天王が一堂に会する定例会があるらしい。


 そこで、魔王の一番の側近である友人が粗相をする。

 今までは許されていたのだろう……魔王にフランクな対応をする友人。

 その瞬間、豹変した魔王は友人に残虐なお仕置きを施し……。

 哀れ友人は感情の無い操り人形となる。


 当代の魔王は友人にも容赦しない……魔王を侮っていた連中は震えあがるだろう。


「”残虐なお仕置き”の内容だが……俺の【認識改変】と【属性改変】を使えばノーダメに出来るから心配はいらない」


「ごくっ……して、そのお仕置きって何にゃ?」


 汗をダラダラ流しながら震える声で聞いてくるポンニャ。


 俺はフェルに目配せを送り頷き合う。


「……それは秘密だ」


「秘密だよ、ポンニャちゃん」


「演出上、ガチで断末魔の悲鳴を上げてもらうことが大事だからな……ネタバレをするわけにはいかないだろう?」


「こくこく……楽しみです!」


「コイツらいつの間に通じ合ってるにゃん!?

 ポンニャにサキュバス権はないのかにゃん!」


「……問答無用」


 ズビシッ!


「ふぎゃっ!?」


 フェルの右手から伸びた紫色の触手に絡みつかれ、引きずられていくポンニャ。


「あ、ランさん」

「そこの窓から会議場が一望できます」

「スキルを超指向性で放てるようにしときましたので、よろしくお願いします」


 え!?


 いつの間にか俺のスキルが進化したようだ……今さらではあるが魔王の実力に驚きながら、俺はフェルの私室の奥にある出窓のそばに移動する。


 確かに、ここから魔王城の中庭が見える。

 ハーピィなどの人型モンスターが忙しそうに机と椅子を運び、装飾を取り付けている。


 さて、何が出るか……。


 俺がスタンバイして10分後……突然三条の雷が中庭に落ちる。


 いよいよ、魔王軍四天王のお出ましのようだ。

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