第42話 お迎え
――機関車の煙突からもくもくと、煙がまき上がる。少しずつ……段々とだが、それと共に機関車のスピードが上がっていく。――警察達との距離が少しずつだが、離れて行く。ガレットは、そんな機関車の様子を確認して、薪をどんどん運んでいく。
その薪をジャスミンが受け取って、そのまま短い距離ではあるが駆け足でボイラーの中に突っ込んで行った。
「……かなりスピードも上がって来たし、そろそろ薪の方を減らしていくぜ。お前は、そのまま運転を続けてくれ。俺は……ちょっと、野郎どもを減らしに行ってくる…………」
ガレットは、それからガンベルトに手をつっこみコルト銃を一丁だけ取り出し、弾丸が入っているかを確認。そして、もう片方の手に
「……飛ばすぜ。”ディア―ハンター”」
ガレットは、リボルバーの銃口を自身の脳天に向ける……そして、引き金を引いた。
――
ガレットの瞳の奥にギリシャ数字が浮か浴び上がる。彼は、ガンベルトの後ろについている長いロープを手に持ち、それを思いっきり投げた。
「……とにかく数を減らすんだ! 首でも何処でも良い! とにかく巻き付いて動きを止めろ!」
ガレットの手から勢いよくロープが飛ばされる。ロープは、猛スピードで蛇のように螺旋を描きながら警官達のいる所までドリルのように突っ込んで行った。――ロープは、獲物を見つけると敵の死角に入ってからささっと首元にロープの体を巻き付けていった。
「……んぐぅう!」
警官の1人が、首を絞められて苦しそうにもがきだす。――そして、その男は、馬の体から滑り落ちていき、地面に体を叩きつけた。
「……まずは、1人」
ガレットは、コルト銃を構えて狙いを定めながら呟いた。――それから彼は、反対方向にいる男に向かって引き金を引いた。
――たちまち、その男の心臓から深紅の聖水がぶちまけられていった。男は、そのまま弾の勢いのまま馬の体を滑り落ちるようにして地面に落とされていった。
「……後、8人」
彼は、次なる狙いを見つけて、拳銃を構える。――そんな彼の拳銃を構えている方向とは逆側でロープは既に次なる標的に向かって襲い掛かっていく。
――タアァァァァァァァァンン!!
大きな音と共に、コルト銃から弾丸が放たれる。弾は風を切り、空気を貫いて行き、そして一切ぶれる事なく警官の首元に炸裂する……!
「しゃあ! 次!」
それから彼と彼のロープが、もう一人ずつ殺そうとした。──その時だった。
「ハイヤァァァ!」
警官の1人、ラフィットが突如として猛スピードで馬を走らせる。
「……近づいて来るだと!?」
ガレットは、驚きつつも銃口をラフィットへ向けた。
「なんだか分からねぇが、とにかくここで殺すチャンスだぜ!」
ガレットは、狙いを定める。彼のコルトがラフィットの脳天へ向いたその時……!
ガレットが、引き金を引く。その直前だった。
「……貴様らは、絶対に捕まえる! 保安官としての自分の誇りにかけて! いでよぉぉぉ! “ハンゲイム・ハイ”!」
ラフィットの大きな声がガレットへも聞こえてくる。――咄嗟に、彼は次に何が来るのかと警戒しだす。……が、ラフィットの方からは何かが飛んでくるわけでも、彼自身の体に変化が起きるでもない。
「……なんだ!? 能力を使ったんじゃないのか?」
ガレットは、間の抜けた顔となり、少しの間だけ固まっていたが、それからすぐに気を取り直して、ラフィットへ狙いを定める。
「……ヘボな能力だぜ。何かが起こる前にここでぶっ殺す!」
彼は、着ている服の第1ボタンを取り、そしてじっくりと狙いを定める。
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「……ったく、なんだか息苦しいぜ」
ガレットが、もう1つ。第二ボタンを取る。
「あぁ? くそっ! ボタン取っている間にあの野郎、動きやがった。また狙いを定めなきゃじゃねぇか!」
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「……あぁ、くそっ! 息苦しいぜ…………」
彼は、イライラしながら拳銃を構え続けた。――だが、なかなか引き金を引くに至れない。……そんな時に、彼の後ろから1人の女の声が聞こえてくる。
「ねっ、ねぇ? ……アンタ、どうして…………」
「あぁ? なんだ? なんかあったのか? 人質」
ガレットは、目線を変える事なくジャスミンへ聞き返す。そんな彼へジャスミンは、更に驚いた感じの声で言った。
「なんだって……いや、どうして……どうしてアナタ、浮いてんのよ?」
「あぁ? 浮いてる? お前、何言ってんだ?」
「だって! ちょっと、見てみなよ!」
「あぁ……」
ガレットが、一度コルト銃の方から視線を離して自分の真下を見渡すとそこには、機関車の車体から離れた少し高い所に浮いているという事実があった。
「……なっ、なに!?」
ガレットが、その事に気づくと同時に彼の体が一気に空高くへと上昇していく。それと同時に、さっきまでの彼の首元の息苦しい感じが更にとんでもないものへとなっていった。
「……ん。こっ、これは……!?」
彼は、締め付けられそうな自分の首を抑えながら下に見えるラフィットを見下ろした。
――ラフィットが、言った。
「……これが、”ハンゲイム・ハイ” 貴様の体を宙へ浮かせていき、その高さに比例して貴様の首が絞めつけられる。……ふふっ、安心しろ。最終的には、貴様の首は潰され、この俺の手で処刑されるんだ。楽になれるぞ」
「んにゃろ……。けどな、そこまでご丁寧に解説しちまって良いのかよ?」
ガレットは、顔面を青くしつつもまだ余裕のある顔で告げた。
「あぁ平気さ。なんせ、このハンゲイム・ハイは、一度炸裂したらもう弱点はない。貴様を天まで押し上げ、昇天させる。処刑台となるのだ! さぁ、そのまま押しつぶされて死んでしまえ!」
ガレットの首が、またも強く締め付けられる。彼は、更に顔色を青くして苦しそうに藻掻きだした。
「……ガレット!」
ジャスミンは、そんな彼へ向かって叫んだ。――しかし、当の本人は返事なんてできない。彼女は、心配そうにガレットを見続けた。
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――夢から覚めて……!
そんな時に、彼女の頭の中で消えたはずの声がし始めた。
「え?……」
咄嗟に彼女は下を向いた。
「…………アナタは、誰なの? 私に、さっきも声を……」
謎の声が、また彼女の頭の中に響いてきた。
――私は、アナタ。アナタの深層心理……。良い? 聞いて。アナタは夢を見ているの。この夢は、アナタの過去の最も幸せだった過去を元に作られた紛い物。
「……紛い、物?」
――だって、よく思い出してみて。アナタは、さっきまで何処にいた?
「え……」
すると、ふと彼女の脳内に見覚えのある者達の姿が映し出される。
「……ガレット」
それは、何気なく発した言葉だった。しかし、彼女が自分の言った言葉の意味を考え出すと、脳内にあった記憶は更に広がっていく。
深層心理は、続ける。
――このまま夢の中にいると、アナタは本当に夢の世界の住人と化してしまう。そうなったら、現実へ帰る事も本当に愛する者の傍へも行けなくなってしまう。
「そんな……どうすれば…………」
ジャスミンは、上に見える苦しそうなガレットの姿を見つめ、そして顔を暗く染める。
――大丈夫! 簡単だよ。アナタが、目を覚ませば良いの。
「目を……覚ます? ……………………さっ、覚めて! 覚めるのよ! 私!」
ジャスミンは、目を瞑って叫ぶ。そして、その後に自分の頬っぺたをバシン! バシン! と力強く叩いた。
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「……ダメ。多分起きてないわ。だって、景色がそのままですもん」
彼女は、暗い表情を浮かべながら自分の頬っぺたを優しく撫でた。――すると、またしても脳内に声が波紋のように広がってきた。
――そうだと、思ったの。だから……助っ人を呼んで来たわ。
「助っ人?」
――えぇ、もうそろそろよ。本物がね。
「え?……」
ジャスミンが、首を傾げていると上で苦しそうに喘ぐガレットよりも更に高い所……青い空の上から何かが、勢いよく落下してくるのが見えた。
「……あれは?」
ジャスミンが、その落下してくるのをジッと見つめていると、それはただの黒い点のようなのから……どんどん確かな実態を浮かべていくようになる。
ガレットのいる辺りを通り過ぎた所で、ようやくジャスミンはその落下してきたものが何か理解する事できた。
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――そのものは、機関車の薪を沢山積んだ所へと隕石のように激突し、そしてその余りの衝撃に薪がいくつか飛び出てしまう。
「……いたたた…………」
1人の男の声がその木材の中から聞えてくる。
――ジャスミンは、言った。
「……ガレット」
そして、同じく頭を痛そうに抑えながらガレットは言った。
「……よう。良い夢は、見れたか?」
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