第40話 行く
──後は、引き金を引きゃあ終わりか。
ガレットは、余裕な笑みを浮かべながらコルト銃を真っ直ぐ突きつける。その黒い影の先には、よく見るとドリルのように鋭く尖った弾が隠し込まれており、そこから彼の殺意を代弁するかの如く、狂気的なオーラがチラついていた。
「チッ……」
黒ガレットは舌打ちをし、ガレットの顔を面白くなさげに見ていた。
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だが、しばらくして彼の不満げな表情は徐々に緩んでいき、そのうち黒ガレットの唇は狂ったピエロのように吊り上がり、目は殺人鬼のそれのようにギラギラしていた。
恐ろしい何かを感じたガレットは、一瞬だけコルトの銃口を上向きにしてしまう。──黒ガレットの甲高い笑い声が彼の耳を打つ。
「……んだ? これから撃たれるってのに、随分と余裕そうじゃねぇか……」
ガレットは、困った顔で言いつけた。すると、黒ガレットはそんな彼に対してねっとりとした声で言うのだった。
「……撃てよ。俺の負けさ」
「……!?」
「どうした? 簡単な作業さ。指をスライドして終わり。……なぁ? 楽勝だろ。なんたって俺達は今までたくさんの命を奪ってきたんだからよ。その拳銃と……俺達自身の力でさ……」
「……!?」
「フヒヒッ! なぁ、やっぱりいつも能力使う時に考えちまうのか? “良かった〜。6番目の力が当たらなくて〜!” てさ」
「……!」
ガレットは両手で銃を構え出す。──しかし、黒ガレットの方はそんな事気にも留めず、喋り続ける。
「……まぁ、こんな事聞かなくても分かるんだけどよ。なんたって俺は、
──その時、ガレットの頭の中にトニーの姿が映し出される。
「……」
「ウヘヘ。……さぁてさて、それで聞くけど、お前はこの俺を撃てるか? もし撃つんだとしたら、分かるよなぁ? お前は、また過去から逃げる事になるんだぜ? それでもお前は、この俺を容赦なく撃ち抜く事がでk……」
その時、強烈な弾丸が発射された――。
凄まじい銃声と共にガレットの持つコルト銃から勢いよく弾丸が放たれる。……その瞬間、それまで余裕な顔を浮かべていた黒ガレットの姿はなくなり、彼の漆黒の体が闇の地面に叩き落とされる。
──黒ガレットの脳天から黒色の血らしきものが流れ出る。
そんな姿を見ながら、ガレットはコルト銃をガンベルトに収納し、倒れた彼の体に背を向けて、歩き出す。
黒ガレットが苦しそうな声を上げながら、言った。
「……とうとう…とうとう、撃っちまったなぁ。お前はまた過去から逃げたんだ。……へっ!」
「あぁ、そうだな。俺は、またも過去と決別した。それが、俺の答えだ」
ガレットは、後ろを振り返る事なく言い終える。すると、徐々に姿が消えていく黒ガレットが一言だけ微かに言うのだった。
「……覚えとけよ。俺は……お前の中の闇。これからも、この先もずっとお前の中で俺は生き続ける。覚えとけよ……」
「あぁ、ここから出たらすぐ、忘れてやらぁ。それが……賊ってもんだからな」
「……ふっ、良いだろう。今回は俺の負けとしよう。…………そのままずっと真っ直ぐ行け。いずれ着く」
それだけ言って、漆黒のガレットは消えてしまった。
後に残ったガレットは、暗黒の地面に置かれたハットを自分の手元へ呼び、深く被ってテクテク……と歩いた。
「……待ってろよ。ジャスミン」
──彼は、歩き続けた。
〜ジャスミンの夢〜
──機関車の中で……。
「……ねぇ、あなたは一体誰なの?」
機関車を運転する男へジャスミンは問いかける。その男は、何も喋ろうとはせず、1人黙々と機関車を動かし続けていた。
そんな男の反応を見てジャスミンは、面白くなさそうに言った。
「……ねぇ〜。それくらい言ってくれても良いでしょ?」
しかし、男は白くなりつつあるその髪の毛を掻き分けながら、機関車のボイラーに薪を入れ続けた。
ついに我慢できなくなったジャスミンは、頬を膨らませ、そして男の頬っぺたを強く掴んで引っ張る。
「……ちょっ! イテテテテテテテテ! おまっ、なんだよ! 離せェ!」
「人の質問にはしっかり答える! それくらいちゃんとしなさい!」
「なんで人質のお前に俺が命令されなきゃならねぇんだ!」
すると、ジャスミンはその手を更に大きく広げて引っ張り続ける。──彼女の力に耐えられなくなったガレットは、とうとう半分泣きそうな顔で訴える。
「分かった! 俺の負けだ! だから離してくれ! 言う! 言うから! ……つねんな!」
すると、彼女はすぐに手を離した。
「あいててて……」
ガレットが、しばらく頬を摩っているとジャスミンは蔓延の笑みを浮かべて訪ねる。
「……さぁ、言って!」
「……はぁ。見りゃ分かるだろ? ガレット・ローズ。指名手配中のギャングだよ」
すると、彼女は驚いた顔を浮かべ出した。
「あら? 本物?」
「ったりめぇだ。……じゃなきゃ、警察に追われたりしないだろうが」
「あら。そう……」
彼女は納得したような顔で口をぽかんと開けて頷き続けた。
すると、そんな彼女を見てガレットは、ぶっきらぼうに言った。
「……何、魚みてぇな間抜けヅラ晒してやがんだ。俺が名乗ったんだからテメェもやれや」
ジャスミンは、そんな彼の言い方にイラッときてつい怒鳴ってしまう。
「……何よ! そんな酷い言い方なくない! はぁ、ほんと何なのかしらねぇ! 夫はそんな事一言もいわn……」
そこまで言いかけて彼女は固まった。
──あれ? 私の……夫? 夫って……。
──彼女の中に、どこか見覚えのある懐かし差を感じる様々な映像がうっすらと、ぼやけてだが見えてくる。
ジャスミンは思い出そうにも、しっかり思い出せないでいた。
──2人だけを乗せた機関車は、沈まぬ太陽と動かぬ雲に向かって無限の線路を走り続けるのであった。
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