第98話 ファンタジー掌編を書いてみよう その10 『王様の耳は超長いロバの耳』

 ラナイ・ナナイ王の耳は長い。公称では10メルテちょうどとされているが、実は12メルテ半の長さがある。形も常人の耳とはかけ離れており、まるでロバの耳を引き延ばしたようだ。ラナイ王が移動するたびに、巨人の背丈にも匹敵するそれを召使二人がかりで持ち上げて後ろを付いていくさまは、王の耳の長さの象徴だ。しかし、ともすれば滑稽な王の耳を、ナナイ王国の民は誰一人笑わなかった。

 かつて若きラナイ王は、見識を広める諸国漫遊の旅の最中に、悪辣な魔女に出会った。魔女は言った。

「そこらの凡庸な王のように、お前もいずれ民を苦しめる愚鈍な王になるだろう。いまは気骨があるようだが、それもいずれ失われよう」

「私はそのようにはならない。ぶしつけな魔女よ。私はこの耳で民の声を聴く」

「そうか、ならばよく聞くがよい。そのロバの長耳で!」

 魔女はそう言って、いずこかにかき消えた。すると、若きラナイ王の耳はロバの耳になっていた。それ以来、ラナイ王の耳は伸び続けている。

 ラナイ王の長い耳は、若い彼の高潔さゆえに受けた呪いによるものなのだ。国民はみなそのことを知っていて、ラナイ王がいまだ若かりし頃の高潔さを失っていないことをその治政のありようによってわかっていた。

 旅人にラナイ王を笑うものがあれば、若きラナイ王の逸話を聞かせて諭す。それが、いまのナナイ王国の習わしである。

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