第55話 SF掌編を書いてみよう 『広告街』

 広告街アド・シティは企業広告連合が広告のために、無人島を買い取り築き上げた都市である。広告街アド・シティには、碁盤の目のごとく広告道路アド・ロードが敷き詰められ、広告建築物アド・ビルディングが立ち並んでいる。空を見上げれば、広告飛行船アド・エアシップ広告風船アド・バルーンが空を賑わせているのが、いつでも見えるだろう。広告が地面や壁面にびっちりと展示されている街並みは圧巻で、せわしない。広告アドタクシーや広告アドバス、地下広告鉄道アド・メトロといった、広告交通機関アド・トランスポートが市民の足となり、広告警察アド・ポリス広告病院アド・ホスピタルが市民の安全と健康を守っている。

 街の運営は、広告費で賄われているから、税金はタダだ。無税の街に憧れて、毎年多くの人々が広告街アド・シティに移り住んで来るが、同じだけの人が街を出て行く。

 広告街アド・シティで広告から逃れることはできない。公共空間のあらゆる場所にあらゆる種類の広告が掲示されているからだ。目を閉じ、耳を塞いでも、街中には、食品や広告などの広告香アド・フレグランスがふりまかれているし、手すりやドアノブにすら、広告質感アド・テクスチャが張られている。購買欲を過剰に刺激する情報の嵐は、慣れない人々をノイローゼにしてしまう。

 しかし、そんな街に適応する人々もいる。広告人アド・ピープルだ。彼らは、金銭の類をまったく持たない。企業からの試供品や提供品だけで暮らしているのだ。

 広告人アド・ピープルは身体中にスポンサーのロゴの刺青を入れ、スポンサーが指定する服を着る。スポンサーの提供する食事を、できるだけ人目に付く場所で食べ、#てりたまサメバーガー#新発売#PRのタグを添えて、自撮り画像をSNSに投稿する。住宅もスポンサーの提供品であり、レビューの投稿を義務付けられている。気苦労が多そうな暮らしだが、彼らはいち早く新商品を触れられることや、トレンドの最先端を走ることに喜びを感じて、自ら進んでそういう暮らしをしていた。

 ある人には地獄、ある人には天国。それが、広告街アド・シティという街だった。

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