第40話 マジックリアリズム風の掌編を書いてみよう 『見えない神輿』

 三連休を利用して、久方ぶりに実家に帰った。大学に入って家を出るまで使っていた部屋にこうして戻っていると、自分まで子どものころに戻ったような心地になる。実家に置いて行った漫画本を読んでいると、ふいに祭囃子が聞こえてきた。そういえば、九月ももう下旬だ。たしかに秋祭りのころだろう。町内を神輿を担いで回ったのが懐かしい。

 遠くで聞こえていた祭囃子はどんどんと近づいてくる。かなり近い。すぐそこだ。これはもしや、家の前まで来ているのではないか。私は自室の窓から外を見た。

 外の道路は変わらず暗く、人っ子一人いない。そこで私は、このところの秋祭りは疫病禍で中止になっていると、両親に聞いたことを思い出した。だが、たしかに家の前を神輿が通る音がする。祭りに浮かれる人々の気配まで感じるのだ。

 見えない神輿は祭囃子と共に遠ざかっていった。徐々にフェードアウトする祭囃子のさまは、私がかつて聞いたものと同じように思えた。

 私は目をぱちくりさせて、いま自分が耳にし感じたものが、たしかに存在したのか、それともただの白昼夢なのか、考えていた。

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