第25話 ケモミミ百合掌編を書いてみよう その2 『耳の先』
美しく愛おしいものは、やはり唇に挟みたくなる。たとえば、祭りの夜店で買ったおはじきとか、作ったばかりの押し花のしおりとか。私にとって、カナの耳先もそのひとつだった。
カナの耳先は、彼女の地の灰色の毛並みとは違って、そこだけ白くなっている。耳先は柔軟でなければいけないから、彼女のそれも例に及ばず、耳の中では一層柔い。私とは毛質が違う滑らかな毛並みと、血の通った耳の肉とを、薄い唇の皮膚で感じると私はこの上なく幸せになる。
対して、カナはというと、耳先を唇で食まれることを、快くは思っていないようだ。機嫌が悪いときは、耳先を器用にくねらせて、私の唇を躱す。そうでなければ、「マヒロ、やめて」という。本当に機嫌がいいときだけ、耳先を私に食まれるままにさせておく。今日のように。
私たちは海に来ていた。小高い防風林の東屋から見下ろす晩夏の海は、どこか寂しげで、真っ赤な夕陽がよく似合っている。日が落ちてきて、すこし肌寒くなってきたから、私たちは身を寄せあっていた。カナは私の腕の中で丸くなって、じっと海を見つめている。
アブラゼミがジージーと一匹だけ鳴いている。ふと、堤防の方を見ると、釣りに来た親子が引き上げていくのが見えた。
「もう帰る?」
私は言った。カナは首を横に振った。
「もうちょっとだけ」
私も、そんな気分だった。カナと同じ気持ちだった。愛おしさが胸に溢れて、私はカナのつむじの辺りに、顔をうずめた。
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