第15話 めちゃくちゃなSF掌編を書いてみよう 『ミイツ=オーロラ・ハイパーソニック』

 ミイツ=オーロラ・ハイパーソニックは酸素プラズマ色の長髪をたなびかせ、エウロパの海を激走していた。両足が交互に海面を叩き、ミイツの身体を極超音速で前へ前へと運ぶ。

 ミイツの立てる凄まじい高さの水柱を、木星再開発機構の空母戦闘群が捉えたころには、もう遅かった。ミイツは空母の頭から突っ込んで、お尻から抜けて行った。常軌を逸した純運動エネルギーを食らった空母は、一瞬ちくわのようになって、崩壊した。空母が爆発四散する様を木星再開発機構の人工衛星が捉え、本部へその映像を送った頃には、艦隊は全滅していた。

 木星再開発機構の本部艦隊は騒然とした。イオと道ずれに葬ったはずのミイツが生きている。それはまさに、木星再開発機構にとっての死の宣告であった。

 数週間前、木星再開発機構執行部隊が、エウロパの水上都市で非協力的な先住民たちを殺戮していた。そこに、どこからかふらりと現れたのがミイツである。最新のパワードスーツで武装した執行部隊を、ミイツは素手で一捻りにした。そして、ミイツは木星再開発機構の施設や人員に次々と攻撃を加え始めた。木星再開発機構のあらゆる兵器や武装は、ミイツに傷ひとつ付けることもできなかった。木星再開発機構は最後の賭けに出た。解体予定だったイオにミイツをおびき寄せ、星ごとミイツを爆破したのだ。

 星を砕くほどの爆発も、宇宙の真空もミイツを殺すに及ばなかった。そして、ミイツが本部艦隊へと向かっていることが明らかになり、木星再開発機構の上層部は次々と逃亡を始めた。恥も外聞もなく逃げ出す老人たちの中に、一人、老いた瞳の中に

闘志を燃やすものが居た。

 バイツ・オサフネ。御年333歳。生体強化されたオサフネの身体は、耐用年数を大幅に超えてなお、頑強であった。オサフネは、一執行部隊員から成り上がった叩き上げであり、木星圏の再開発こそ人類に再び黄金期をもたらす唯一の方法であると信じていた。

 オサフネは自らミイツを迎撃せんと、機動人型決戦兵器『第二の太陽』に乗り込んだ。カタパルトをオーバーロードして高速射出された第二の太陽は、極超音速に達し、ミイツに真正面から突っ込んだ。

 第二の太陽は粉微塵に吹き飛んだ。オサフネはエウロパの海に生身で投げ出された。

「どうしてだ……どうしてそんなに強い! 大義もないのに!」

 オサフネが叫ぶと、遠くから声が聞こえてきた。

「牛乳飲んでるから!」

 オサフネはぽかんと口を開けて、気絶した。それから、しばらくして、オサフネが水上都市の浜辺に流れ着き、目を覚ました時、彼は木星再開発機構が壊滅したことを知った。オサフネはミイツの真意を確かめるために、しばらく生きてみようと思った。

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