第369話 言葉の壁

 俺達は色々な事を知らなければならないので、取り敢えず聞き込みをしようとしていた。まずここの行政府や町を守っている者、もしくは町を統治している者達、そういう支配階級の者はどこにいるのか?住人は要望等をどこに出しに行けばいいのか?住民登録の仕方等を聞いて回る事にした。


 見た目が極普通の男性に声を掛けた。


「あの、すいません。私達は田舎からこの町に来たばかりでよく分からないのですが、外から来た者達が住民登録などをする所だとか、そういった手続きをする所はないのでしょうか?」


 その男性は大いに驚いていた。


「君達は何を言っているんだい。嘘か、からかっているのか?他の町から来れる訳ないだろう!頭大丈夫か?」


 そんな感じで相手にしてくれなかった。


「俺の頭が大丈夫って、何なんだろうね?」


「あの人はというか、あの人の話が理解出来たのですか?」


 ライトアイが驚いていた。いや、4人共にだ。次にレフトアイが同じような事を聞いてきた。


「あのねランス。ランスは会話が出来たのよね?私には何を言っているのかさっぱり分からなかったわ」


「えっ?」


 俺は情けなく、かつ間抜けな感じの驚きの声を上げた。という事は、俺は普通に会話ができていたけれど、レフトアイ達には分からなかったようだ。


「それが不思議なのです。ランスは普通に会話をしていますが、私達にはさっぱりで、何を言っているのか理解出来なかったのですよ」


 リギアの言葉に今少し考え込んだ。


「うーん。多分俺の持っている能力というのは、バルバロッサで召喚された時に授かった翻訳能力なんだろうな。という事は、暫くの間、君達だけでは町中へ繰り出せないという事になるな。うーん・・・困ったな」


 その後何人かに同じような質問をするが、聞く人、聞く人から何バカな事を言ってるの?と相手にされなかった。仕方がないので自らの足で、それっぽい建物を探さなければならなくなってしまった。


 町を探索しているとレフトアイが聞いてきた。


「あの、ランス、気付いていますか?人の往来は多いのですが、先程から1人も子供を見掛けません」


「言われてみればそうだな。変だな。確かに子供を全く見ないな。話し掛ければ丁寧に応えてはくれるが、どうも、面倒くさそうに答えている節があるんだよ」


 異様さの正体はこれだったのだ。

 何かこの町はおかしい。そう、おかしいと思っていたのだが、高い壁がある訳でもなく、申し訳程度の柵がある位だ。犬とか狼がいるのかも分からないが、もしそれらの獣がいたとして、町の中に入って来ないようにする為の物であり、ここから先は町の中だという事を知らせ、人の住まう場所を外と遮る為の申し訳程度の境界線代わりと思われる柵しかないのだ。


 この辺りには魔物がいないのかな?そんな事を思っていたりした。町の中を探すと、色々な店があるのが分かるが、残念ながらここで使えるお金を当然ながら持ち合わせてはいない。


 その為、買い物ができないのだ。

 さて、お金をどうやって工面するか?そんな事を考えていた。冒険者ギルドみたいなものが有れば良いなとは思うが、それらしい建物が見当たらないのだ。そうして違和感に苛まされながら町中をブラブラしていたのだが、町の入り口の方からけたたましい鐘の音が鳴り始めた。するとそれまで町中にいた人々が、一斉にどこかに逃げるかのように消えてい行き、1分もすればまるでここはゴーストタウンだというような位になった。

 開いていた店は全て閉められ、店先に出されていた果物などの陳列されていた商品等が建物中にいそいそとしまわれ、固くドアを閉じている感じであった。


 俺も警戒しているが、既にブラックスワン達全員も警戒をしていた。そして町の入り口の方から、ギャオーと大きな咆哮が聞こえたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る