第324話 早苗の話と記憶

 早苗の刻印が無事に刻まれていたので、2人共着替えてから夕食を頂く事にした。


 皆に早苗が妻に加わった事と、魂食いの被害者であった旨を話した。


 早苗の話だと、26歳だった筈だという。ただ、俺同様に、18歳以降の記憶が曖昧で、体が18歳で転移しているっぽい。そして今は多分19歳になったばかりだという事と、魂を魂喰いに喰われており、残り時間が僅かで、急遽刻印の儀を執り行った旨を話した。


 それと、召喚直後の立ち上がれない時に魂食いに体を乗っ取られ、訳の分からぬ間に支配されていたという事を説明し、早苗が魔王として行った事は魂食いがした事であり、早苗は被害者であると認識して貰った。ルシテルとセレナに抱き付かれ、受け入れられていた。


 夕食の後は、早苗の体はまだ辛いところを悪いとは思うが、真の魔王のして来た事について確認する事にした。体を乗っ取られてはいたが、早苗の意識はあり、全てを涙しながら見てきたという。話すのは辛いだろうが、詳しく語って貰う事にした。


 勿論彼女は体を取り戻す事が叶わず、ただ見るしかなかった被害者だとしつこい位に前置きをしてから、早苗に話して貰った。


 この世界に来たのは1年位前と言う。


 早苗の体を乗っ取ったのはどうやら男で、かなりサディスティックな者だった。散々部下に住人を陵辱させる事を強要し、酷い事をさせその様を見て楽しんでいたと。


 時折部下に周辺の町や村を襲わせていた。わざと対等な戦力のみを持たせて攻め入らせ、勝てるかどうかを部下と賭けをして楽しんでいたそうだ。勝って領土を広げる事には興味がなく、楽しむ為だけを目的として、魔物を使って人々を襲わせていた。


 まだ幾つかの部隊が各方面に送り出されていると言い、覚えている範囲の位置や数、その時に出していた指令を伝えられた。


 明日からの行動は、その派遣されている魔物の部隊を潰す事になる。


 夜まで続いた話も、明日から魔物を討伐する事を俺が決定する事で漸く終わりを告げる事になった。


 その日の夜は皆の配慮で早苗と一緒にして貰い、かいつまんで俺が召喚されてからの事を話していった。


 彼女は目を輝かせながら俺の話を聞いてくれて、彼女も覚えている限りの身の上を話してくれた。


 俺達は過去の記憶を失った共通点と苦悩があり、ようやく同じ境遇の者を見つけ、俺は早苗から聞き出した18歳以降の事を新しい帳面に記録した。


 そうやってその日の夜が更けていき、傷口を舐め合うかのように愛し合い、お互いの温もりを感じながら眠りに落ちるのであった。

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