第321話 苦戦

 俺は苦戦していた。俺も切り札を温存しているが、魔王も隠している感じだ。かれこれ6時間程戦っている。


 かなり打ち合っているのだが、全くもって決まらない。お互いの攻撃を避けたり弾いたりで、まともに当たらない。


 流れを変える為に奴をおちょくろうとして、収納から自分の体を出しつつ、転移で天井近くに行き、体を放出した。別の所に転移し、見えない手で身体を操り抱き付きに掛かる。

 そこで反応が有った。苛立ちを感じたのだ。


「手の込んだ事だこと。よくもまあやりおる。しかしやはり愚か者だな!」


 手に持った扇子から何かが出て、体に纏わり付くと、俺の予備の体が一気に黒ずみ、そしてその体が消えたのだ。


 そして魔王が俺の目の前に転移し、扇子で同じようにしようとしていた

 

「右です」


 突然念話が聞こえ、咄嗟に右に動いた。


「っち」


 魔王が唸る。


 懐からもう一つ扇子を出した。ヤバイと直感が告げるが、また念話が来た。


「ようやく出て来る事が出来ました。どうか私を助けて下さい。体を支配されています。どうか解放して、私の魂を助けてください」


「解放とは?」


「はい。首を切断して倒して下さい。そして魂を解放して死なせてください」


 解放してというのは殺して欲しいとの事だ。何者かに支配されていて死を持ってしか開放されないと理解しているのだ。ルシテルとほぼ同じ状態か。彼女に取り憑いていた魂食いを引き離す事が出来たのは死んだからなのだな。


 魔王が扇子をクロスさせて魔力を込め始めたので、集中させないように収納に入れていた匂いのきつい物を投げ付けた。直接狙うと避けられて後ろに飛んでいくが、足元に投げつけた。防犯用のカラーボールを投げるのも体に直接ではなく、周辺の物や地面に投げ、割れた玉から飛んだ液体が掛かるのを狙う感じだ。


「っち」


 舌打ちしてその場から飛び退いた。しかし、俺は先読みというか、誘い込むと退路を塞ぐ為にウォール系で囲むとそこに入ってきたので、正面も塞ぐと間髪入れずに熱湯を入れ始めた。流石に転移をして逃れるが俺も追撃に出た。


 それからは攻守が反転した。


 時折「左です」「背後に来ます」等と念話で伝えてくれる。本来の体の主は取り憑いている奴の思考が分かるらしい。


 その念話が無ければ今頃は致命傷を食らっていたかもだ。


「そろそろ倒せそうだが、いいのか?」


「はい。最早死ぬしか解放されませんので」


「君の名前は?」


「早苗と申します。別の形でお会いしとうございました。今なら動きを止められそうです。今です!さようなら」


「分かった。俺も愛してあげたかった。可能なら生き返らせてやる。その時は愛してやる。!行くぞ!」


 扇子から起死回生の何かを展開し、俺に届く直前に時間停止を使った。後ろに転移して一気に首を刎ねた。

 奴の狙いが少しだけずれていたので、当たらずに済んだのだ。いや、早苗が何かをして、狙いを逸したのだろう。助けられた。


 首が落下し地面を転げる。


 そして体から魂食いが出て来て、レニスに向かっていく。魂食いかよ!俺はつい唸った。


 俺は浄化のホーリーを使うとレニスに後10cmという所で、魂食いはチリとなり消えていったのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る