第241話 おっさんの正体

 俺は思わず「へ?」と情ない呻き声を出していた。


 おっさんは先を続けた。


「驚く事の程でもなかろう?儂はな、世界貿易センタービルに短大の卒業旅行で行っていて、運悪くテロに巻き込まれたのじゃよ。飛行機が突っ込んだと聞いて必死に階段を降りていたが、ビルが崩れて死を覚悟したらこの世界に居たのだよ」


 短大って2年だよな?そうすると当時20歳位か?日本からの転移以外にあるんだな。因みにこの世界に来てから何年だ?」


「そうじゃのう、確かもうじき3年の筈だ」


「?時間軸がおかしいな。確か20年位前の出来事だぞ」


「そんなに経っておるのか。この世界で目覚めると頭にエラーメッセージが聞こえてのう。転移を失敗しました。既に他の魔王がいる為魔王になれませんでしたとか聞こえたのだよ。魔法を封印されました。解除するにはこの体では無理ですとかな。恐らく向こうに戻れたら人間の体に戻れるのだろう。儂が向こうに戻りたいのは人間の体を取り戻したいからじゃ」


「そうか、おっさんも大変だったんだな。出来るだけ協力するよ。所で下の名前は?」


「ヒロミじゃが」


「じゃあ宜しくなヒロミ!俺は志郎と呼んでくれ。所でその外観は流石に違うよな?」


「うむ流石にな。160cmで痩せておるでな。純粋な日本人じゃから黒目黒髪じゃぞ」


 俺はおっさんじゃなく若者と理解出来た。俺の事は45歳で、転移時にエラーが発生して若返っていると説明する。

 ヒロミには言わなかったが、恐らく向こうには戻れないと確信している。そう言えばショッキングな事を言われたっけな。


 俺と握手をした時に何かの幻影が見えたと。どうやら水樹と俺とセレナでダンジョンをアタックしていて、その時の事だと。水樹と思われる者は20歳位だったと。


 確かに俺もぼんやりと覚えている。水樹達と一緒にダンジョンに潜っているが、頭を打ったせいかあまり覚えていない。あの中に男って俺以外にいたっけな?少なく共今のキングの格好の者や、変化の衣を使った今見えているおっさんの姿の者は見えなかった。見覚えのない女もいたかもだが、髪が長かったから女と勘違いしたのか?良く分からない。


そうそう、ヒロミが短大と言った事の意味を理解するべきだった。絶対ではないが、少なくともあの当時は短大に通うのは殆どが女子だと言う事を。


「なあ風呂にでも入るか?一緒でも別でもよいが、別に入るなら使い方を説明するけど」


「では風呂場を見せて貰おうかのう」


 そうして風呂場を見る。


「残念ながらちと一緒は厳しそうじゃのう」


「そのようだな。じゃあ魔力のチャージから・・・」


 そうやってバスタオルとタオルをを用意してフロ場を後にした。


 そういえばあの和服だが、見覚えがないな?ヒロミの収納にあった唯一着られそうなのがあれなのかな?


 俺も入れ替わりで風呂に入り、その後肉体再生と隠密のスキルを付与した。何故かヒロミは失禁し俺も出てしまった。とても驚かれ、恨めしそうな目をされたし、悲しげな目をされた。そしてクリーンを掛ける。エラー的な存在がそうさせているのだろうか?


 そう言いつつも、明日からダンジョンを進んでいく。俺達2人なら五体満足な状態でスタートすれば大丈夫だろう。ヒロミには言ってはいないが、念の為回収した体の一部を収納の中に入れている。欠損修復が有れば体の一部から肉体を再生できる。一応俺の命を優先する事としたのだが、それは死者蘇生があるからだ。


 まだ死者蘇生の疲れが抜けないので、風呂を上がった後は早々に眠る事にしたのであった。

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