第199話 刻印の成否

 俺は朝の微睡みの中目が覚めた。


 朝日が心地よい。

 傍らには愛する女性がいる事を魂が感じている。


 そして頭を撫でられていた。


 段々意識が覚醒してきた。


 がばっと起きてメイベルを確認すると、キスをしてくる。

 ステータスを視ようとすると話し掛けられたりして、中々視れない。ちょっと焦ってきた。


「おはようメイベル。刻印はどうなった?」


「えーっとね、あのね、その、ちゃんとランスロット様の物になりましたよ?」


 微妙な言い回しだ。

 夜中に目覚めた時は3時間しか経過していなかった為、まだ刻印が完成していなかったから気が気ではなかった。


 しかしステータスを視るとちゃんと印表示があり、念話もできた。


 おもわず抱きしめて泣いた。


「良かった。刻印が失敗した夢を見たんだ。絶望的だったんだ。君だけが老いて朽ちて行くのを見なければならない所だった。共に生きていこうな」


 メイベルは俺の態度にかなり驚いており、きょとんとしていて可愛らしい。


 そして俺は絶賛甘え中だ。


 暫く戯れていると、メイドが朝食の準備が出来た旨をドア越しに伝えていった。


 食堂にメイベルを伴って行くと、女性陣が拍手で迎えてくれた。


「メイベルおめでとう!」


 メイベルは泣いていた。

 俺も泣きたい。嵌められたからと。今回は肝を冷やしたのだ。入れ替わりに完全に気が付かなかった。生娘だから合体した時に気が付いたが、そうではなかったら気が付かなかっただろう。


 彼女達は完全に見た目が一緒だ。アリアとロトナは胸の大きさが違うから分かり易い。しかし、ドロシーとメイベルは性格は違うのだが、演技がはいるとまるで分からなくなる。


 この2人は幼少の頃から頻繁に入れ替わっており、年季が違う。


 食事の後、2人を執務室に呼んでいた。


 俺は2人を正座させた。


「分かっているのか?刻印の儀が失敗する所だったんだよ。悪戯では済まない所だったんだ。分かっているよね?」


 2人はしょんぼりしている。余り責めても仕方がないので、程々にして開放する事にした。


「今後俺に対する入れ替わりは寝室以外ではダメです。いいね?」


「ごめんなさい。反省しています。今度お詫びをちゃんとします」


 俺の左右に立ち、ステレオで喋るから、堪らない。

 俺はキスをして許してあげた。因みにお詫びとは何だろう?ちょっと期待してしまう。


 そして皆を執務室に呼んで今日の話をする。


 クロエは留守番、他の者は皆カービングに行く。クロエには今晩留守番をお願いした事のお詫びをする。


 そして王と面談だ。


 ゲートを出して城に向かう。

 メイベルを自分の部屋に連れて行き、ベットに寝かせた。今日は1日辛い筈なので、セチアを付き添わせた。


 カービングの町は酷くやられていた。王都の人口は300万人位と言われている。いわれているというのはきちんとした統計がないからだ。100万かも分からない。きちんとした国籍の制度を作らないとなと思う。


 ただ、今回の事で10万人以上が亡くなったらしい。

 街の復旧と魔物の殲滅、死体の回収と結構忙しい。

 カービングの兵は死体の処理、ワーグナーの兵で魔物の討伐だ。その為、昨夜返した兵とは別の兵をゲートで連れてきている。


 今回の魔物の魔石の俺達の取り分は復興及び、亡くなった方の見舞金に充てて貰う。幸いギルドは無事だったから魔石を持ち込んだ。ダンジョン攻略分は追加の特別依頼となる。


 多くの貴族もまた亡くなっていた。そんな中の貴族の一人で、スタンピードが始まった時、王からの招集令に背いて逃亡を図った者がいた。しかし、無理矢理外に出た途端に魔物の群れと対面したという。当主がそうやって死んだのもあり、既に取り潰しが決まっているのだ。その貴族の屋敷を取り敢えず俺の屋敷にどうぞと言う。メイドや執事はそのまま雇用すればよいかと思う。因みに国王の従兄弟だとか。

 しかし大きな問題があるというのだ。

 

 取り潰しの理由は、逃亡だけではなく、屋敷に行けば分かるという。だが、王はそれを聞いた俺の事を思うと怖くて言えないと言うのだ。それと出来れば急いで欲しいと言う。王も知らされたのはつい一時間前の事だという。

 他に色々やらなければいけない事が多いが、まずはその屋敷に行く事とした。


 それと王権譲渡の儀式は、1週間後を目処に執り行う事となった。復興の状況次第だが、明るい話題も必要なので敢えてすると言う。


 ドロシー、アリア、ロトナ、オリヴィア、バトルシップ、ユリア、護衛としてラニーニャを連れて件の屋敷に赴く。


 屋敷は立派な外観で、皇帝の住まいとしても問題ないと王が言っていただけの事はあり、白亜の宮殿風の屋敷だ。

 3階建で紅の屋敷の倍位ありそうだ。因みにワーグナーの皇帝の居として建築中の屋敷は更に大きいという。設計にクロエが意見を出しているから、まあ間違いはないだろう。


 まずは執務室と主の居室を見る。そして寝室だ。

 特に問題はない。既に布団は入れ替えてあるという。

 風呂や食堂等とても良かった。大きなホールもあり、舞踏会が開催できるというよりも、頻繁に開催していたという。


 俺は首を傾げた。何が問題なのか?と。屋敷の殆どを見た筈だが分からなかった。


 執事がおどおどしながら進言してきた。


「ご主人様、問題はこの地下室でございます。今回前の主が亡くなるまで私も入室を禁じられておりました。それだけを覚えて頂ければ幸いです。一緒に行くのは心が強い方でなければ無理でございます」


 執事はロトナ、アリア、ユリアに目を向ける。俺は大体の予測を付けた。なのでいま指摘された3人には居室の確認をさせるようにした。


 そして覚悟を決め、地下室に降りていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る