第186話 ランスロットとオリヴィアの葬儀

 俺は意識を取り戻したが、誰かがオリヴィアの部屋をけたたましくノックし、大丈夫かと呼んでいる声がする。


 返事がないのでドアを開けて数人が入ってくる。そう、俺もオリヴィアも声を出せなかった。そして絶叫と共に駆け出す。

 セチアとクロエ、三宝姫とユリアもだ。俺の体に近付きその凄惨な光景に絶句している。俺は口から吹き出した血により体も周りも血だらけだ。しかもオリヴィアの手には俺の左手が握られている。

 但し体にはくっついていない。しかも2人共苦悶の表情で目は大きく開かれたままだ。


 皆、俺とオリヴィアに抱き付き、状態を確かめるまでもなく泣いていた。

 息絶えているのがひと目で分かったからだ。


 俺の状態もオリヴィアも酷かった。片手は心臓に手をやり苦悶の表情なのだ。相当苦しかったと分かるだろう。

 ただ、不思議なのは、2人の体は死後硬直をしていないのだ。


 ユリアが唯一直ぐに正気になり、部屋から駆け出してタオ殿を呼びに行っていた。


 程なくしてタオ殿とお母様が駆けつけ、お母様は、気絶してしまった。タオ殿は懐から何かを取り出し、メイドの一人に領主を呼ぶように送り出した。


 皆泣いているし、メイドや執事は狼狽えていた。


 俺は魂が体から抜けたような状態で、天井付近から俯瞰して眺めていた。そこから動けないのだ。


 暫くすると意識を失い、場面が変わる。いきなり俺とオリヴィアの国葬の真最中だった。


俺とオリヴィアの体をよく見ると魔力が体内をゆっくり循環していて、既に心臓は修復しているっぽい。呼吸はしていないが、どうやってか酸素を取り込み、魔力が血液を循環させているようだ。体の方は肉体再生の影響で修復しているっぽい。


 三宝姫とユリア達を含めた俺の愛する女性陣と、バトルシップの4人には肉体再生を付与済みだ。勿論大変だったがオリヴィアにも。


 つつがなく葬儀を行っているのは前国王だ。

 どうもオリヴィアとの刻印の儀から1週間が経過しているようだ。葬儀のあと火葬だという。


 俺は必死だった。


「体は、まだ生きている!待て、待つんだ!触ればわかる!誰かもう一度別れの前に体を触ってくれ!頼む!」


 必死に叫んでも誰にも届かない。気が付いて欲しい。俺とオリヴィアの体が死後一週間経過した体ではなく、仮死状態なのだと伝えたい。


 念話を試みたり、神の手を発動しようとするも出来なかった。


 国葬は城の前の広間で行われ、多くの国民が集まっていた。ほぼこの町の全ての者が集まったと言っても過言ではない程に。

 特にクロエの取り乱し方に涙が出てきた。


「駄目なのよ!!!まだ生きているの。刻印がまだあるの!死なないと消えない筈なのよ!」


 遺体の前に駆け寄ろうとするが、衛兵に防がれてしまい向かえないのだ。


 国王の演説の後、神殿の最高司祭が弔いの言葉を述べている。アリアの上司だ。


 それが終わると、正装をした騎士達と、バトルシップの面々が棺に蓋をして、別の場所に棺を移動していく。


 祭壇から少し離れた所に木を大量に並べられて作られた台座の上に棺を2つ並べ、更にその周りに木を並べている。


 棺の周りにオリヴィアが好きだった真っ赤な花を神殿の巫女と言うか、シスターが大量に並べていっている。そして棺に送り出す為のお酒を掛けている。それと金貨を6枚、棺の上に並べているのだ。庶民の場合銅貨になるようだ。


 そう、間もなく送り火の儀式が始まる。俺は悔しかった。まだ生きているのに、誰にも気が付かれなく、自らの体が火葬にされる様を見る事になるのだ。頭の良いクロエは気が付いたようだが、取り乱した可哀想な俺の妻として扱われてしまった。他の妻達は取り乱しており、頭が働いていないようだ。


 そして棺の周りに油が撒かれ、いよいよ火が着けられる。


 火を点ける役目を果たすのはアリゾナだった。

 流石に肉体再生があってもこの木が燃える中では追いつかず、やがて灰となるだろう。


 アリゾナの持つ松明に火が着けられた。


 そしてー恭くお辞儀をし、棺がある祭壇に燃え盛る松明を投げ入れると、燃え始めた。油が撒かれている為に、火の回りは早く、祭壇全体が一気に燃え盛る。


「俺もここまでか。ナンシーやシェリー、如月さんに会ってみたかったな。無念だ。ぼちぼち体に火が着くだろうな」


 今の俺に出来るのは呆然と自分の体が燃やされるのを、ただただ見ているだけだった。


「さようなら。愛しているよ!如月さんとユリアとやりたかったな…」


 最後まで腐れ外道だった。まだ致していない女との情事を無念に思っており、棺が燃え出し、己の体に火が回った辺りで意識がなくなったのであった。

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