第183話 ドロシー


 おしゃれをしてデートと洒落込みたかったが、2人の今の服装は冒険者が着るような物だ。

 ドロシーの髪もわざとボサボサにして、一般市民に紛れさせていた。


 そうでもしないと町中をうろつけないのだが、驚いた事に慣れていた。


 ロトナは市井の店で買い食いをした事がなかったが、ドロシーは屋台を見掛けると買いに行ってしまった。


「ちょっと待っててね」


 暫くすると串を持って戻ってきた。


「おまけしてもらっちゃった」


 満面の笑みを浮かべていた。


「へー!驚いたな。ドロシーは慣れているんだね」


「うん。メイドさんとよく町に繰り出していたから」


 町中に行くのは市民生活を知る為で、城にばかりいると世間ずれをしてしまうからだそうだ。


 中々活発に活動していたようで、着こなしも普通の町娘にしか見えない。ただ綺麗過ぎるから下町には行けない。襲われ拐われるのが関の山だからだ。


 今のドロシーの服の着こなし具合は、俺と普通の恋人にしか見えないので気が楽だった。武器は剣をちゃんと身に着けているので、下手に絡まれる事はなかった。夕方近くだったので、ラニーニャに教えられた見晴らしの良い塔の上に居る。ドロシーを抱いて飛んで行き、今は塔のてっぺんだ。


 勝手に上がっているので誰もいない。特に何もなく喋らずに黙って手を繋ぐ。言葉は必要ない。景色をただ見ている。奇麗な景色だ。どちらからともなく口付けをし、ネックレスを出して首に着ける。


 語る必要すらなかった。ただお互いを理解しただけだ。

 でも、ドロシーが目を拭っていたのを見逃さない俺である。俺はそっと指でドロシーの涙を拭うと顔を赤くして照れていた。


 そして1分間の夜空の散歩を愉しんだ。

 勿論お姫様をお姫様抱っこでね。

 俺は誰かを抱いて飛行魔法を使ったのが初めてで、その事をドロシーに伝えた。


「じゃあ最初の飛行デートは私なんだね」


 ドロシーは目を輝かせ、俺が多くの女の子とデートしていても、自分との事が初体験だと言う事がとても嬉しかったようです。


「ああ!私が初めてだなんてうふふ」「よし」

 

 ドロシーは心の声を口走っていた。

 可愛いらしい一面もあるのだなと意外な一面を見れたので俺は嬉しかった。


 夜になったのでもう一度飛行魔法を行い、宿の近くまで行った。そして宿の食堂で2人での食事を頂く事にしており、デートも終盤に差し掛かる。


 ドロシーは庶民の普通の料理が食べたいと言うので、宿の併設の食堂での食事とした。それは美味しそうに、温かい料理だと唸りながら食べていたが、本当に王族か?と思うほど一般市民になっていたので、不思議な娘だなと見ていて楽しかった。


 城ではロトナと同じで毒味が終わった冷めた料理が殆どだったと言うのだ。それが嫌で、行先を告げずに露店で買い食いをよくしていたのだと。ふむふむ。


 宿の部屋に入ると、ドロシーは久し振りに心の底から楽しい時間を過ごしたよと、それはそれは嬉しそうに話してくれた。


 俺も楽しかったので、何故かドロシーを高い高いしてはしゃいでいた。

 ドロシーはキョトンとしていたが可愛かったのでキスをして、愛を囁いた。

 耳元でかなり恥ずかしい、気障な言葉を並べて、ドロシーがくねくねしているのを見て愉しんだ。

 何を言ったかって?内緒です。と言うか恥ずかしくて公表できません!


 夜も遅くなってきたのでこれから恋人の時間だ。


 風呂の準備をすると、既に服を脱ぎ捨てて手で胸とかを隠しているドロシーがいた。


「あ、あのわたしゅの体どうでしゅか?」


 舌を噛んだのはご愛嬌かな。


 俺は腕を掴みキスをして裸体をまじまじと見た。


「綺麗だよ。気絶しそうな位に」


「良かった。あ、その、清めの儀というのをして下さい」


 そう言うと床に寝転がる。


 どうも誰かに清めの儀の事を間違って聞いたようだが、優しく子供を洗うように丁寧に洗いましたよ。

 頑張って息子を寝かし付けているのをドロシーがチラ見していて、俺がその事に気が付いているのが分かると、真っ赤になりながら釈明をする。


「あ、あのう、メイドから男の人は興奮するとあれがああなると聞いたのですが、私に魅力がないのでしょうか?確かにアリアの方が胸は大きいのですが。うう」


「君は魅力的過ぎるよ。俺はね、本当は清めの儀式が嫌いなんだ。奴隷制度自体が許せないんだ。だから興奮できないんだよ。俺はね、ドロシーを最後に清めの儀式を禁止しようと思うんだ。だから清めの儀式の清め納めかな」


「そうとは知らず、嫌な事をさせてしまいもうしーうごごご」


 キスで先を言わせない。


「気にしないで。それなりにドロシーの体を確認できたからさ。アリアやロトナと違い、何かして体を鍛えているでしょ?」


「よく分かりましたね。ええ、内緒で剣を習っていたのですよ。マクギー殿の叔父上から。国元では剣姫って二つ名があったりするんですよ」


 意外だった。剣は習っていないと聞いていたが、今度手合わせをして実力を見せてもらう事になった。


 一緒にお風呂に入り、お互い体を拭き合い、お姫様抱っこでベットに運ぶ。


 これから刻印の儀を始めるとなり、最終確認をすると頷くのでキスをし、優しく愛し始めると、何とロトナとアリアから、ドロシーに優しくしてあげてねと念話が来たりした。


 ちょっとした驚きもあったが、お互いの愛を確かめ合い、彼女を胸に抱き寄せながら眠りについていったのであった。

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