第149話 修行と謎の美少女

 マクギーが来るまで柔軟体操と、受け身の自主練をしていたが、マクギーは俺に近付いて来た途端、手にしていた杖を急に振りかざしてきた。


 そう言えば今日は朝姿を見てからが修行のスタートだと言っていたと思い出したが、そうか、そういう事かと理解した。

 そして本日の修行は終了と言うまでが修行だと。


 マグギーはそこらにいる冒険者の出で立ちで、市井に紛れ込む事が可能な格好だ。

 見た目から油断してしまうのを狙っているっぽい。


 不意打ちになんとか対処して杖を避けたが、驚いた事に仕込み刀のようで、鞘の部分が伸びてきた感じの2撃目が迫ってきたが、剣で受け流した。


「やあ!おはよう。ちゃんと反応できるんだね!素晴らしい。仕込み刀には驚いたようだね。こんな武器も有るからというのと、見た目に惑わされないようにと伝えたかっただけだけど、君には不要だったね。まあ、不意打ちは今日だけだから、明日からはちゃんと挨拶してから修行開始だからね」


「いやー、流石に不意打ちには驚きましたが、仕込み刀というのは実に見事なものですね。改めておはようございます」


 早速修行が始まったが、今日はひたすら基本の型のみだ。


 ゆっくりと打ち出される剣を指示通りに弾いたり、カウンターを繰り出すだけだが、どうやら俺は一度やれば覚えてしまうようで、その取得スピードに驚かれてしまった。


 段々早くなっており、キンコンカンコンガキーンと言う感じに気が付くと周りが呆れる程かなり早く打ち合っていた。

 既に一般人には剣筋を追えないレベルだ。


 普通は数年やらないと出来ないと呆れていたが、ちゃんとスキルは止めていた。


 あまりに習得が早く、マクギーは得物を槍に切り替え、槍対剣との基本をゆっくりと始め、早くも1時でキンコンカンカンと本気の打ち合いになっていた。


 流石に俺もおかしいと感じ始ていて、原因を考えると、昨夜の臨死体験しか思い至らないのだ。確かに日記の内容だとバルバロッサにて執事のセバスチャンや元騎士のフレデリカ嬢に剣技を毎朝教えて貰っていた筈だが、修行の期間はまだ短く、素人に毛が生えた程度の筈なのだ。フレデリカ嬢に情け容赦なく打ち付けられており、剣のみで戦ってまともに一撃を入れられた事がない等と日記にぼやきが書いてあった。


 考察するに何かのギフトの発動条件を満たしたようだ。

 推測の域を出ないが、技術取得のスピード200~1000倍位か、技術コピー等の取得系統だろうか。


 昼近くになり基本を再度確認して今日は終わったのだ。


 昼はアレイ殿が知人と食べると言い、同行を求めてくるので応じたが、誰と会うか内緒だった。期待と不安が過る中、馬車に揺られるのであるが、嫌な予感しかしないのは気の所為だろうか?


 もう少しで到着となる頃にちょっとした事件が起こった。

 馬車が急に止まって、叫び声や怒声が上がったので、俺は咄嗟に剣を出して身構えて外に出ると、一人の女性と子供が馬車の前で倒れているのだ。

 事情が分からないが、血を流して怪我をしているのと、どうやら骨折をしているようだ。


 子供はこの女性に抱き抱えられていて無傷のようだが、この女性はこの子の母親だろうか?それにしては若そうだが、今はそんな事を気にしている場合ではないのだ。


 苦しそうに呻いていて、脚もあらぬ方向に曲がっている。周辺の安全確保が最優先なので、馬車の周りを一周して周辺を警戒したが、どうやら襲撃ではなさそうなのでアレイ殿と御者が安堵していた。


「申し訳ありません。子供が急に飛び出して来まして、間に合わなかったのですが、この女性が咄嗟に子供をかばった次第でして」


「相分かった。襲撃ではなさそうじゃな。ランスロット殿、大丈夫そうなのでその女性の治療と介抱をお願いしたいが良いかの?」


「ええ、そうですね、直ぐに治しますから、もう少しの我慢ですよ。治療の為に少し体を触りますので失礼します」


 そう言い女性を抱き起こして傷を確認すると、顔に深い裂傷と服が汚れているのと脚の骨折位だろうか。出血は顔からのみだ。脚と顔に触れ、ヒール唱えると見る見る傷が塞がり、本来の綺麗な肌が現れたが、女性はかなり驚いていた。怖かったのだろうか、少し濡れていて当然臭っている。


「土等で汚れてしまいましたね。今クリーンを掛けますから。クリーン」


 クリーンを唱えると臭いも取れ、顔や服に付いた汚れもすっかり取れた。そこには驚くしかない程の美女、いや美少女がいたのと、触れた時に見えた幻影が理解できなかった。彼女と共に一軍を率いており、俺が陣頭指揮をして戦っているのだ。彼女は本陣で俺に何かの加護を唱えていた。俺が前線で戦えるように後方の業務をしているメンバーに指示を出していて、俺の為に総大将の俺が不在の陣を回してくれる有りがたい存在で、恋人か妻の一人のようだ。


 更に悩むのだ・・・・・・俺って今度は何をやらかすのだろうか?と。


 治療が終わり顔を撫でて傷がない事、脚を撫でて正常な事、腕と手の状態を見て擦り傷が消えている事、前は控えたが背中をさすって大丈夫か確認していった。


「触った感じだと治った筈ですが、まだどこか痛む所は有りますか?」


 すると俺の手を取り胸に当てるので、慌てた。胸骨を折っていたかと。


「ヒール」


 俺はその手を撥ね退けて胸に手を当てヒールと唱えると、彼女は顔を真っ赤にしてて首を振った。


「失礼しました。傷は大丈夫で御座います。痛い所と言われましたので、その、つい私の心が貴方様を素敵だなと思い、ドキンとして痛んだだけですので、大丈夫です」


 俺の頬にキスをし、クリーンのお礼を述べると、貴族令嬢がする優雅なお辞儀をしてそそくさとその場から去った。子供の手を取り子供を叱り付けながら涙を流して、怪我が無くて良かったと言いながら去っていったのだ。


 アレイ殿は何事もなかったかのように、その場を出発するように御者に伝えていて出発すると5分位進んで目的地に着いたのだが、着いた先を見ると項垂れるしか無かったのだ。


しかし何者だったのだろうか?粗末な服を着ては居たが、貧乏人には見えなかったが、心の清い素敵な女性だったな。旦那さんが羨ましいと嫉妬したのだ。


 

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