第36話 敵の突進

「さっきまでパニックで腰が引けていたくせに、今度はイノシシのように突進してきただと!? ちっ、少しは楽できると思ったのに」


 ハイパーグランパの艦橋に戻って一時の休息をしていたセリカは、敵の動きを見て舌を鳴らした。

 突進といっても秩序だったものではなく、バラバラに突っ込んでくるだけだ。本来なら、高い戦意が空回りしていると冷笑してやりたい。

 だが、いまだ二十倍の戦力差があるのを考えれば、無秩序な猪突さえ恐ろしい。

 あの混乱から味方を立ち直らせた海賊のボスは、なかなか優れた指揮官のようだ。


「攻勢に惑わされるな。敵の陣形はバラバラだ。落ち着いて距離を保ちつつ、突出した艦を狙い撃て。各個撃破の好機である!」


 セリカの指示により、味方が海賊の勢いに飲み込まれるのは回避できた。

 しかし、一時的なものだろう。

 敵の攻撃はメチャクチャだが、それが逆に波状攻撃となって、こちらの機械と人員に疲労を蓄積さていく。

 特に敵のビームを何度も防ぎ続けたエネルギーシールドは、回復が追いついていない。

 セリカは敵の動きを抑えるため、何度目かの出撃を決意する。


「マスター。私も行きましょうか?」


「いや、予備戦力は必要だ。アリスデルはここに残っていてくれ。もし敵が接近してきて味方がやられそうになったら頼む」


「分かりました。あまり無理をしないでくださいね。敵がここまで粘るとは思っていませんでした。なにか異常な執念を感じます」


 セリカはアリスデルに頷いてから宇宙に出る。するとブリジットも来てくれた。


「疲れているところを悪いな。無理はするなよ」


「あ、皮肉じゃなくて本気で心配してますね。セリカ先生だけを戦わせていつまでも休んでるわけにはいかないじゃないですか」


「ふふ。確かに一人で寂しかったぞ。ではもう一度、二人で暴れるとしようか」


 二人はまるでダンスをするかのように優雅に駆け巡り、敵艦に魔法を叩き込み、いくつもの輝きを宇宙に咲かせていった。

 敵艦の残り、約百五十隻。

 この連携が続けば、一気に敵を全滅させられるのではと思うほど縦横無尽であった。

 だが、ついに補給の限界点を迎えた。


「これが最後の魔石です」


 コーネイン重工から出向してきているメカニックに、そう告げられた。


「なに? なぜもっと魔石を用意しておかなかった。ヴォルフォード男爵領は魔石の産地なのだ。いくらでもあるというのに」


「残念ですが、魔石ならなんでもいいというわけではないのです。かなり純度の高いものでないと……この欠点は量産機では改善する予定ですが……」


「……分かった。理由があるなら仕方ない。ではイグナイトから魔石を回してもらえ。あちらはまだ余裕があるだろう」


「先ほどからそうしていました。この艦隊最後の魔石なのです」


「そう、か」


 また一人の戦場だ。

 そして次の補給は受けられない。

 カタパルトで宇宙に出たセリカは、敵艦に杖を向ける。それと同時に、カウントダウンを告げるホログラムを表示させた。

 あと数十秒。


「……まあ、ギリギリ間に合ったかな? ワープジャマー解除! 敵と味方の位置をイーノックに送信しろ。それだけであいつは最適な動きをするはずだ」


 ワープ技術を使った超光速通信は、ワープジャマーの効果範囲内では使用できない。逆にワープ技術を使っているゆえ、通常宇宙からワープ空間へ情報を送ることが可能だ。

 イーノックは数十秒の誤差は許容しろと言っていた。

 ところが実際は、一秒の誤差もなく海賊艦隊の後ろにワープアウトしてきた。


「セリカ先生。ご注文の品々、お届けに参りました」


「助かったぞイーノック! ワープジャマー再起動。さあ、挟み撃ちにするぞ!」


 イーノックが持ってきてくれたのは、セリカが発注していた巡洋艦十隻である。

 既存の十隻と新たな十隻の主砲、更にセリカの魔法が一斉射撃を開始。

 宇宙海賊は前後からの挟撃に為す術もなく、その数はついに百隻を切った。

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