5-3 エリートクラスSSS、ブレイズの戦略
「ブレイズが主張してね」
マルグレーテは、なぜか黙り込んだ。眉を寄せて。
「……卑怯な手段は取らない。全員、実力で戦おう。それが栄誉あるドラゴンクラスの戦い方だって」
「わあ、ブレイズらしい」
たしかにランの言うとおり、いかにもブレイズが考えそうなことだ。
「そう決まったのか」
「うん……」
マルグレーテは、テーブルのホットミルクを口に運んだ。
「たしかに正論だし。それにブレイズは、王立冒険者学園ヘクトール始まって以来の驚異的な好成績で入学してきた。個人対抗疑似戦トーナメントでも圧勝。異論があっても、誰も表立っては反論できない空気というか……」
「だろうなあ……」
ブレイズ、性格はいいんだけどな。まっすぐな正義漢で。でもなんか……周囲にいると疲れそうだわ。
「『僕は必ず個人で一位を取る。それにここはドラゴンクラス。みんなの実力だってそこそこ高い。だから全クラス対抗の総合成績で、一位以外はありえない』って強弁して」
「なるほど」
たしかに。客観的に判断すれば、そう思うのも無理はない。
「今度こそいいところをランに見せるんだ。僕はモーブより優れてるって」
はあ、やっぱそうなったか。
「『また始まった』……ってクラスの空気、わかるでしょ」
情けなさそうな顔で、俺を見つめてきた。前も言ってたもんな、マルグレーテ。トーナメント戦のとき。
「わたくしも言われたわよ。マルグレーテは魔法成績トップクラス。でも絶対魔法は使うなよ、マルグレーテの実力なら、素の水泳力でも、そこそこいいところまでは行くからって」
「それ褒めてるつもりなんだ、あいつ。許してやってくれ」
「なんか無意識にマウント取ってくるのよね、ブレイズ。悪意がないだけに、逆に対応に困るというか」
よく考えたら、地方貴族とはいえその娘に対し、ど田舎の村人Aがマウントだからな。俺と付き合うようになって随分丸くなったとはいうものの、マルグレーテ、気位が高いところあるし。万民平等生活を掲げる学園内だからこそ、かろうじて許される行為だよなこれ。
そりゃあな。本来このゲームの主人公なんだし。主役気分が出てくるのはある意味、仕方ないところだ。おまけにメインヒロインのランを即死モブにゲーム開始早々寝取られて、取り戻そうと焦ってるんだろうし。
「SSSクラス『ドラゴン』の戦略を噂で聞いて、SSもSも、盛り上がってるらしいわよ。今年はチャンスかもって」
「そりゃそうだな。毎年SSSに無双されてるんだし」
「ブレイズが一位になったら、どんな戦略を取ろうが、おそらくSSSクラスの勝ち。ブレイズ以外も上位に食い込むでしょうし。だから仲間を魔法で先行させるというより、全力でブレイズを潰してくると思うわ、上位クラスはどこでも」
ブレイズ、ご苦労。各クラスのヘイトを一身に集め、それでもトップを狙うとか、見上げた主人公根性だ。……まあ俺は、別の道を行くけどな。モブに転生した俺ならではの道を。
「で、モーブはどんな戦略を取るつもりなの。さっきの話だと、モーブが戦略立てるんでしょ、Zクラスの」
「教えてもいいけど、SSSには情報流すなよ。戦略なしってブレイズの考えなんか、どこに流しても問題ないけど、Zクラスは落ちこぼれ。戦略だけが勝負だからな。そのやり方はずるいとか、事前に学園に訴えて禁止されたらかなわん」
「スパイなんかしないわよ」
キッと睨まれた。
「こう見えて、誇り高きエリク家の一員よ。見損なわないで」
「そうだよモーブ」
ランが俺の手を取った。
「マルグレーテちゃんに謝って」
「たしかにそうだな」
太ももに置いたマルグレーテの手に、手を重ねてやった。
「あっ」
引っ込めようとする手を、俺は離さなかった。
「ごめんなマルグレーテ。お詫びに今日は俺、裸で寝てやるよ」
「はっ裸っ!?」
マルグレーテは飛び上がった。
「どうしてそうなるのよ」
「俺は抱き枕だって、お前もランも喜んで抱き着くじゃないか。裸のが体温伝わるし」
「わあ嬉しい」
ランは大喜びだ。
「モーブ、たまーに裸になってくれるんだよ、マルグレーテちゃん。胸に頭を乗せるとね、モーブの心臓の音が聞こえるの。どくんどくん……って。あったかいし落ち着くから、ぐっすり眠れるよ」
「そ……そう」
俺に手を取られたまま、マルグレーテは赤くなった。
「な、ならいいわ」
自分に言い聞かせるように付け加えた。
「裸で抱き合って眠るくらいなら、お父様の言いつけにも背かない。……わたくしは裸じゃないし」
まあ正直、俺が嬉しいってのはある。女子がどうのとかいうエロじゃなく、添い寝自体が気持ちいいからな。まだ頼んだことはないが、いずれはランにも裸になってもらって、抱き合って眠りたいと思ってるし。……まあその場合、俺の理性のトレーニングのが先になるだろうけど。
「……それで、どんな戦略なの」
「それはな、マルグレーテ」
俺は話した。Zクラスならではの、俺の戦略を。「技」については適当にごまかしたけど。
「そう。そんな戦略を……。さすがはモーブね。勝敗は別にして、なんだか楽しそう」
聞き終わったマルグレーテは、ほっと息を吐いた。またホットミルクを口に運ぶ。もう冷めてるけどな。湯気も立ってないし。
「わたくし……」
なんとも言えない瞳で、俺とランを見つめた。
「ランちゃんがうらやましいわ。……わたくしも、モーブと同じクラスになりたかった」
「ならZにおいでよ、マルグレーテちゃん。私もモーブも大歓迎だよ。もちろんクラスのみんなも」
ランはもう、大喜びだ。
「そうは行かないのよ、ランちゃん」
悲しそうに微笑んだ。
「わたくしはエリク家を背負っている。ヘクトールでZクラスに落ちたと知れたら、お父様もお兄様も烈火のごとく、お怒りになる。……一家の恥として退学させられるし、下手したら
そんなもんか。面倒だな、貴族のプライドって奴は。俺が親ならそんなん、気にもしないがな。娘の幸せのが大事だ。
「まあそう悲しそうな顔をするな、マルグレーテ」
髪をくしゃくしゃっと撫でてやった。
「今晩も抱き枕になってやるからさ。……さて寝ようか、ラン」
「そうだね、モーブ。裸になってね、約束だよ」
「わかってるって」
まっかになって硬直したマルグレーテを横目に、俺は服を脱いだ。いや一応、パンツだけは穿いておくけど。これは俺自身のストッパーだからな。脱いだら暴走する自信がある。
●次話、いよいよ遠泳大会当日。モーブ率いる学園底辺Zクラスがとんでもない行動に出て、会場ビーチを大混乱に落とし入れる。ついに物語に登場した学園長は、それを見て……。
次話は明日日曜朝7:08公開予定です。モーブお前アホだろwww
あと業務連絡。近況ノートでも報告したように、第一部全体のプロットがほぼ固まったのでタイトル変更しました。多分そのうちまた変更するかもです。
新タイトル:
即死モブ転生からの成り上がり ――バグ技&底辺社畜力で生き残る。って主人公のハーレム要員がなぜか全員ついてきたんだが。主人公はしっかり王道歩めよ。こっちはまったり気ままに暮らすから
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