3 おんぼろ旧寮暮らしの日々
3-1 ランとデレデレお弁当タイム
「ねえモーブ、お昼のお弁当食べよっ」
「おう」
Zクラスのボロ机を、ランががたがたと寄せてきた。午前中の授業(らしきもの)が終わり、昼飯の時間になったところだ。
「今朝の女子寮、ご飯、豪勢だったんだー」
「そうなのか、男子寮はいつもどおり、悲惨の極地だったけどな」
「だから、今日はご馳走だよ。はいっ」
かわいい弁当箱をふたつ、ランが並べた。俺、前世の学校では、一度も女子とお弁当タイムとか無かったわ。まるで夢だな、これ。
「ほら」
「おう。こいつはいい。牛カツに野菜と玉子の炒め物、それに肉団子煮まであるじゃないか」
「でしょう、ふふっ」
俺とランは、旧寮暮らし。もちろん食事なんか出やしないので、朝晩はそれぞれ男子寮と女子寮に分かれて飯を食う。調理スタッフの休憩の関係で、昼飯はSクラス以上でないと出ない。Aクラス以下はみんな、腹減っても我慢するか、実家から送らせた保存食で済ませる。
そもそもSクラス以上は、朝晩も特別扱いだ。貴賓室で、教員と一緒に食事取ってるからな。内容も一般食とは段違いらしいし。
「はい、モーブ。あーん……」
牛カツをつまむと、俺の前に持ってくる。おう。これ、前世で一度も俺の身に起こらなかった、例のイベか。中学高校時代の夢というか。せっかくだから俺はこの、金色の夢に乗るぜ。
「あーん」ぱくっ。
さくっと香ばしいカツの歯触りと共に、牛肉から旨味たっぷりの肉汁が滲み出て、口に広がった。激うまい。絶対女子寮のほうが男子寮よりいい料理人使ってるわ。
「おいしい?」
「うん」
「やーん。モーブ、かわいい」
喜んでるな。
俺とランには実家なんかないし、昼を我慢するのも嫌だ。なので朝食のとき、ランが女子寮の飯の余りを、弁当箱に詰めている。ダイエットだなんだで、女子寮は飯が余る。それに男子寮より全体に飯がうまいとわかったしな。
楽しそうにおかずを詰めるランを見て、貧乏くさいと眉を潜める学園生もいるみたいだ。でもかまやしない。実際、俺とランは貧乏だし。誰はばかる必要はない。学費から仕送りまで実家頼りのお前らと違って、自分の力で生きてるんだ。文句言われる筋合いなんかない。
ランはZクラスの胸章をしているとはいえ、本来SSSクラス楽勝合格だったのは、学園の全員が知っている。なんせSSSクラスはマジ、学園の頂点だからな。そんなランに、表立って文句を言う奴はいない。陰口は叩かれてるだろうけど、別にかまやしない。
他人になに言われたって、それが俺の指示なら、ランは気にもしない。素直な性格だからな。
加えて前世ブラック社畜の俺は、その程度の侮蔑で傷つくようなヤワなメンタルは持ってない。てかそれだったら、激務薄給の毎日に、とうの昔に首くくってただろうし。
「おいしいね、モーブ」
「そうだな、ラン」
「……村のみんなにも食べさせてあげたかったな」
手が止まった。悲しげな瞳だ。
「気にするな。魔物が来るって、俺達はちゃんと警告したんだ。仕方ない」
頭を撫でてやった。
「そうは思うんだけれども……」
優しい娘だな、ラン。それにとびきりかわいい。これまでは孤児のお下がり服だったから、かわいいとはいえ、田舎臭さは拭えなかった。でも王立学園ヘクトールの、仕立てのいい制服を身に纏うと、まるで別人。磨けば光るとかよく言うけど、それどころじゃない。
上着のブレザーを強く押し上げ、シャツのボタンが弾けそうなほどの胸。きゅっと締まったウエスト。ミニスカートから覗く、柔らかそうな太い腿。すらっと長く伸びた足――。これまでの田舎服では隠されていたランのスタイルの良さが、制服でははっきりわかる。
加えて、整った小顔に、きれいな金色の巻毛だからなー。俺はまだこの学園の全学園生を知ってるわけじゃないが、これまで見た学園女子で一番――というかダントツだわ。マルグレーテは地方貴族の娘で、育ちの良さがにじみ出ているが、見た目だけならランのほうがよっぽど育ちが良く思える。
なんせ俺と腕組んで歩いてるだけで、男は全員、振り返って見てるからな。そらブレイズ、メインヒロイン寝取られて敗北感に打ちひしがれるわけだわ。
「ねえモーブ。午後の授業って、なんだっけ」
自分の肉団子をひとつ、俺の弁当箱に入れてくれた。
「ありがとな」
俺がもりもり食べるのを面白がって、よく飯を分けてくれるんだわ。俺達、一緒に食べられるのは昼の弁当タイムだけだから、ランはすごく楽しみにしている。
「午後かあ……」
時間割を、頭に思い浮かべた。
「魔法概論だったかな」
「あれ、眠くなるよねー」
魔力桁違いのくせに、のほほんとしている。思わず笑っちゃったよ。
「まあ、教科書を自分で黙読するだけだからなー。眠くはなるわ」
ヘクトールは、とにかく実力主義だ。上位クラスは生活面で優遇されるだけでなく、授業内容も下位とは全然異なる。AとかS、SSのクラスだと、戦闘経験豊富な戦士や魔道士が、実践的なテクニックを教えてくれる。SSSなんて、王国で名だたる戦士が教師だからな。
授業内容はB、C、Dと落ちていって、Dにもなれない底辺Zは基本、座学のみ。それも教えてくれるわけじゃあない。学生代々受け継がれている、いたずら書きびっしりの小汚い教科書を、ただ黙って読むだけだ。教師もいるがつるっぱげのよぼよぼじいさんで、授業中は教壇で居眠りしている。
教科書だって、「戦闘基礎術」「地形の読み方」「魔法史」とか、どえらく基礎的な内容ばかり。現実の学校でたとえるなら、小学校の教科書を高校生が読んでいるようなもんだ。それだけ落ちこぼれクラスってことだよ。
正直、こんなに酷いとは思ってなかったよ。ゲームはブレイズ視点で進むから、学園編ではSSSクラスのド派手な授業で育成みたいのばかりだったしな。
開発者も、ひとつくらいZクラス授業イベント埋め込んどけばいいのに。ゲームであったのは、Zクラスの跳ねっ返りがブレイズに挑んで惨めに負ける、咬ませ犬イベントだけだからなー。
「ちょっと見てみるか」
魔法概論の教科書を取り出してみた。今日の部分を開く。今日の部分たって、みんな勝手に読むんだから、俺が読んでる部分ってだけだが。
えーとなになに……。
●業務連絡
本日月曜につき、本作と並行して週一連載中の「底辺社員の「異世界左遷」逆転戦記」、最新話を先程公開しました。こちら、本作同様、ハズレ者の底辺社畜が異世界に左遷されて大暴れする、楽しい小説です。本作と異なり異世界で暴れるだけでなく現実世界でも超高速で成り上がる変わった小説ですので、よろしければご一読下さい。
最新話:
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891273982/episodes/16816927862098270045
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