57.もがくリリィ
適性の儀で突出した才能が発覚したリリィ。
その後、上級神官から再度鑑定を受けたり、騎士団長に会って資質を確認されたり、ついには王様との面会があったり、とにかく目まぐるしい日々を過ごした。
突然降ってきた名誉に、リリィは戸惑っていた。
自分に世界有数の才能があるなんて言われても、即座に魔法が使えるようになるわけではないため実感が湧かなかったのだ。
自身に才能があったことが嬉しい反面、期待についていけるか不安であった。
そんな不安は払拭できないままであったが、アルトと『一緒に騎士になる』と誓い合って別れ、騎士学校に入学した。
騎士学校で訓練を受ければ自信がつくと思っていたのだが、現実はそうはならなかった。
高い魔法適性によって同級生の誰よりも早く魔法がレベルアップしていくが、いざ模擬戦となると結果が伴わないのだ。
「〝セイクリッド・ランス〟!」
同級生に向かってリリィが中級スキルを発動する。
全くの同時に六つの光が現れ、それぞれが槍の形を作ってゆく。
戦闘中に常に張っている通常の結界魔法と合わせれば七つのスキルを同時に発動していることになる。
今の現役の騎士の中に魔法回路を七つ持つ者はいない。
すなわち、リリィの能力は誰もが一目置くような稀有な才能であるが、騎士学校に通う生徒は既に彼女のことを知っているため、模擬戦で今更驚く者はいない。
リリィのスキルに対して同級生は、同じ神聖魔法をベースにした防御スキルを唱える。
「〝神聖結界〟!」
出現した光の結界に、輝きを放つ槍が衝突する。
光と光が混じり合うと、辺りに強力な煌めきが走る。その場にいた誰もが瞬間的に瞼を閉じる。
そして、リリィが次に目を開けた時に見えたのは維持されたままの結界であった。
「そんな!」
思わず声をあげたリリィはその後も攻撃魔法を立て続けに放つ。
しかし、流れるような連続攻撃も有効な一打を与えることはなかった。
〝神聖結界〟に阻まれ、下位の攻撃魔法に相殺され、ついには敗北を喫することとなった。
それ以降も模擬戦の度に負けを重ね、リリィは自信をつけるどころか、すっかり弱気になってしまった。
(私は他のみんなよりも攻撃魔法に適性がないのかな……)
リリィは魔法適性に恵まれている、これは事実である。
一方で、魔法適性の高低に関わらずうまく魔法を扱えない人間がいることもまた事実である。精神状態などが影響しているのではないかと言われているが、本当の原因は解明されていない。
リリィは自らの不安を振り払うように鍛錬を重ねた。尋常ならざる才能を持っていながら、誰よりも努力を積み続けた。
騎士学校の同期は彼女を狂気に満ちていると言った。
教師も彼女に少し休むように勧めた。
だが、リリィは歩みを止めなかった。
騎士になれなければアルトとの約束が自分のせいで果たせなくなってしまう。せっかく二人で同じ道を誓い合ったのに、それだけは嫌だった。
こうしてリリィの神聖魔法は非常識な速度で進化を遂げた。
さらには剣術にも磨きをかけることで、学生の身でありながら高難易度スキルである〝神聖剣〟を使いこなすに至った。
彼女は同級生の中で比肩する者のない実力を手に入れていた。
三年生になる頃には模擬戦で負けることは皆無となり、確かな強さを得ると同時に自信もついてきた。
それでも慢心せずに鍛錬は続けていた。
その甲斐あってか、騎士選抜試験ではダントツでの主席合格を勝ち取り、危なげなく騎士の称号を獲得した。
騎士団への入団後は、初任務で命の危険に晒されるような事態になってしまい、これまでよりも一層の努力を続けるようになった。
その後、リリィの後を追うようにアルトも騎士選抜試験を通過したと聞いた時、二人で騎士になる夢が遂に叶ったと心の底から喜んだ。
幼い頃からずっと一緒だったアルトと再び肩を並べることができる、そう思うとこれまでの血の滲むような努力が報われたと感じた。
しかし、その喜びも長くは続かなかった。
第七近衛隊としての任務が始まると自らの未熟さに唇を噛む思いであった。
ヘルハウンドとの戦闘ではミアを危険にさらし、大竜スカルデッドに対してはアルトが打開策を見つけるまでは手も足も出なかった。
アルトが助けてくれたこと、それ自体は素直に嬉しかったが、いつの間にか不安も大きくなっていた。
(私、アルトの足手まといになってないかな……?)
気づけば王女に目をかけられ、勲章を得るまでになっていた幼馴染。
アルトが強いことは分かっていたけれど、こうも差がついてしまうのか、そう思うとリリィの心の中には焦りの気持ちが大きくなっていった。
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