53.決別
王女と共に、王都に帰還したアーサー隊。
「……王女様! ご無事でなによりでございます!」
近衛騎士団長がアーサー隊一行を迎える。団長は、既に大まかな情報を聞いていた。
団長の顔を見ると、王女は頭を下げた。
「私のために第三近衛隊が全滅してしまいました。本当に申し訳ありません」
「いえ、王女様……彼らは騎士の務めを果たしたまでです」
団長は穏やかな目で王女にそう言った。これまで死地をいくつもくぐりぬけてきた団長だからこそ言える一言であった。
「アーサー、よくぞ王女様を救出した」
団長が、アーサーをねぎらう。
「いえ、今回の件は新入りのおかげであります。敵の繰り出してきた魔物、スカルデッドを倒したのも彼らです」
アーサーはアルトたちの方を一瞥してそう答えた。
すると団長もアルトの方を見て言った。
「そうか。今年の新人は優秀だと聞いていたが、本当によくやった」
すると王女が言う。
「彼らがいなければ、私の命はありませんでした。この功績は勲章に値します」
「もちろん、それも当然です」
団長がうなずく。
「さて、功績に報いるためにも、まずは状況を整理しよう。ワイロー大臣の裁判もあるからな。アーサー隊長、帰着早々だが少し話できるかな?」
「はい」
アルトたち平隊員はそこで一度解散になった。
建物を出て、騎士団の本部へ向かって歩き出す。
――だが。
そこに突然の来訪者があった。
「――――アルト」
声をかけてきたのは――他でもないウェルズリー公爵であった。
アルトの心中に、怒り、失望、悲しみ……いろいろなものがごちゃまぜになった感情が現れた。
魔法適性がないとみると、すぐさま自分を追放した男。
――だが、そんな元父親から飛び出したのは意外な一言であった。
「よく立派に成長したな」
――突然のことにアルトは驚く。
二度とウェルズリーの名を名乗るな。そう言われた家を追い出されたあの日の、父親の顔は、アルトの脳裏に今でも焼き付いていた。
だからこそ、笑いながらこちらを見る彼の顔に感情が揺さぶられた。
そしてウェルズリー公爵は――笑みを浮かべたまま、右手を前に差し出した。
「立派に成長した今ならお前を許す。我がウェルズリー家に戻ってこい」
実の父親から投げかけられた優しい温かい言葉。
アルトも、きっと本心ではその言葉を待っていた時もあったのだ。
だが、
「それはありません――ウェルズリー公爵(・・)」
アルトはまっすぐ、ウェルズリー公爵の目を見据えて言った。
「……なに?」
「ウェルズリーの名は、もう私には必要ありません」
アルトは、追放されてから長い間不安を抱えていた。
誰も信用できる仲間がおらず、ただただ毎日、おのれのスキルを磨いた。
だから、家に帰りたい。追放されたのは間違いだと思ったときもあったのだ。
だが、
「今、私には信じる仲間がいます。だからもうウェルズリー家の人間である必要はないのです」
きっぱりと、アルトはそう言い切った。
「おおお、お前ッ!! どれだけ不義理を重ねれば気が済むんだ!!」
ウェルズリー公爵は顔を真っ赤にして言った。
だが、それで何かが変わるわけもなかった。
「……それでは、失礼します。ウェルズリー公爵」
アルトはそう言って踵を返した。
そして、後ろでそのやり取りと見守っていた、リリィとミアの元へと向かう。
「……もう、あの家とは決別するんだね」
リリィは一言、アルトの決意を追認するようにそう言った。
「ああ」
リリィとミアは顔を見合わせて、そしてわずかに笑った。
アルトの表情は、どこか晴れやかに見えたから――
†
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます