48.久しぶりのレベルアップ
坑道をさらに進んでいくと、やがてアルトたちは「最奥部」にたどり着いた。
「――この先、すごく強い敵がいるみたいです」
探索スキルで魔物を検知したアルトはそう報告する。
「よし、いくぞ」
二人はそうして坑道の最奥部に足を踏み入れた。
そこはドーム型に開けていて、建物がいくつも入るほど広い空間になっていた。
天井は抜けており、青い空が広がっている。
「――ッ!」
アルトはそこにいた魔物を見て愕然とした。
そこには全身を黒く厚い鱗に覆われた巨竜が横たわっていた。
巨竜は翼を折り畳み、地面で眠りについていた。
「なんで坑道の奥に、あんなに大きい竜が!?」
「おそらくここで生まれて、鉱山に眠ってる魔法石の魔力を吸って成長したんだろう」
フランキーがそう解説する。
――と、巨竜の先に、人影があることに気が付く。
「てめぇら、何もんだ!?」
数名の男たちがアルトたちの方を見る。彼らはバンダナを額に巻き、腰には曲刀を差していた。
だが、男たちはその刀を抜くのではなく、顔を上げて声を張り上げた。
「“ファイヤー・ボール”!!」
一番前にいた男が、火炎スキルを巨竜に向かってに放った。炎はその体に当たって爆発する。
その衝撃で巨竜は目を覚ました。
「グルウゥゥ――――」
その漆黒の瞳が、アルトたちを見据える。
そして巨竜は、翼を広げ、アルトたちの方に向かってとびかかってきた。
その前足がアルトたちのほうに振りかざされる。
アルトたちはそれぞれ別の方向に飛びのいて回避した。
そしてフランキーはすぐさま上級スキルを叩き込む。
「“ドラゴンブレス”!」
アルトもそれに続く。
「“ファイヤー・ランス”!」
二人の攻撃が巨竜を挟み撃ちする。
だが、
「そんな攻撃、こいつには効かねぇよ!」
後ろで男が叫んだ。
――事実、炎は巨竜の鎧のような鱗に阻まれた。
そして巨竜は身震い一つで身体にまとわりついた炎を振り払う。
巨竜の体は全くの無傷であった。
「なんて防御力だ!!」
アルトとフランキーの最大火力をもってしても、まったく歯が立たない。
「アルト、右足の付け根を狙うぞ!」
フランキーがそんな指示を飛ばす。関節の弱い部分に集中砲火を浴びせて一点突破を図る思惑だ。
「わかりました!」
アルトたちは距離を取りながら、遠距離スキルを浴びせていく。
だが、その作戦は空振りに終わる。
どれだけ火力を集中しても、巨竜の防御を突破することができなかった。
「グァァアッ!!」
巨竜が咆哮し、火炎攻撃を浴びせてきた。
アルトは咄嗟の防御魔法で防ぐ。だが、次の瞬間煙の中から巨竜が一気に間合いを詰めてきて、その爪がアルトの体を直撃した。
「――ッ!!」
背後の壁に叩きつけられるアルト。
身体を守っていた結界(ライフ)が一気に削り取られる。
これでもうアルトの体を守ってくれるものはない。
次に攻撃を食らえば、生身の体が引き裂かれることになる。
「くそ、どうすれば!」
フランキーもなすすべがない。
――万事休す。
そう思われた。
だが、その時だ。
「“ファイヤーランス”!」
アルトがスキルを発動したその直後だ。
アルトの脳内に久しぶりにあの声がこだました。
【オートマジックがレベルアップしました】
「れ、レベルアップ!!」
アルトのユニークスキル“オートマジック”が、久しぶりにレベルアップしたのだ。
そしてアルトは、ちょうど今回のレベルアップで30の大台に乗ったのだということに気が付く。
急いで“オートマジック”のウィンドウを開くと、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※レベル30に達したので、瞬間記述(ノーコード)が可能になりました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな文字が躍っていた。
「(“瞬間記述”、ってなんだ!?)」
新しい技を覚えたようだったが、それがなんなのか記載はなかった。
「(いや、今はそれよりも!)」
アルトは、テキストの下にあった別の記述に目を奪われた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※同時発動の回数が32に増加しました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今まで、“同時発動”で重ね掛けるできるスキルは16回までだった。
しかし、それが倍の32回にまで増えたのだ。
つまり、単純に今までの倍以上の火力が出せる。
「(これならッ!)」
アルトは大急ぎでテキストの同時発動回数を書き換える。
そして、
「“ファイヤーランス”!」
中級火炎スキルが発動する。
だが、その威力は32倍。
火炎はあっという間に縦横に伸び、轟音を立てながらうねりとなって巨竜に向かっていった。
――爆風が洞窟を震わせる。
「グアアアアアアッ!!!!」
巨竜が、それまでとは異質の叫び声をあげた。
明らかに痛みを伴ったそれだった。
そして視界が開けると、アルトの攻撃が鱗を突き抜けているのが見て取れた。
「“ファイヤーランス”!」
アルトはダメ押しで、先ほど攻撃が当たった場所に、追加の一撃を食らわせる。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ひときわ大きくうなり声をあげ、次の瞬間巨竜は絶命したのだった。
「な、なんてやつだ――」
フランキーは一連の出来事を目の当たりにし、もはや嫉妬心などどこかに吹き飛んでしまった。
ただただ、アルトは自分の想像をはるかに超えた強さを持っているのだと思い知ったのだった。
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